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artscapeレビュー

上田義彦「M. Sea」

2014年02月15日号

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会期:2014/01/21~2014/03/08

Gallery 916[東京都]

上田義彦の「Materia」シリーズも、森、川と続いて今回は海をテーマとしている。ピントを外した大画面の写真で「命の大元、Materia」を捉えるというもくろみは今回も貫かれているが、これまで以上に徹底したアプローチを見ることができた。10点の作品の画面の大部分は漆黒で、そこにほの白い飛沫と化した波と、岩のシルエットが微かに浮かび上がる。前にも指摘したことがあるが、上田のこのシリーズは被写体をMateria=物質として提示するあり方はむしろ希薄で、どちらかと言えば絵画性が強いように見えてしまう。だが、その方向性は、今回の作品で極限近くまで突き詰められている。19世紀~20世紀初頭のピクトリアリズムを志向する作品を巨大化した印象で、逆にその反時代的な姿勢が興味深かった。一点だけ、冬の日本海の荒海と岩礁を、ごく普通に撮影・プリントした写真が展示してあったが、その意図がよくつかめなかった。このままだと、他の作品の成り立ちを解説しているようにしか見えないからだ。
会場に併設するGallery 916 smallでは、同時に上田の新作「M. Venus」も展示されていた(5点)。こちらは「Materiaシリーズを撮り続ける中で私の網膜に時々出て来る遠い記憶の中の光景」である「森の中の女性」のイメージを再現した作品である。雪が降り積もる森の中に、赤いボートが置かれ、そこに金髪の裸体の女性の姿がぼんやりと浮かび上がる。その軽やかで官能的なイメージの飛翔が「M. Sea」とは対照的で、とても好ましいものに思えた。

2014/01/31(金)(飯沢耕太郎)

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