2024年03月01日号
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artscapeレビュー

フォーラム 福島における写真の力

2014年02月15日号

会期:2014/01/25

キッチンガーデンビル2階ゆいの庭[福島県]

東日本大震災の被災地でも、福島県は他の地域とはやや異なった状況にある。地震や津波の被害を受けた場所なら、復興に向けて着実に歩みを進めることが可能だ。だが、福島第一原子力発電所の大事故の後遺症は、癒されるどころかより深刻化している。除染、汚染水などの問題は解決の目処がまったくつかず、住人が帰ることのできない空白の地域がそのまま放置されているのだ。2012年に立ち上がった「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」は、福島県をアートを通じて再生させていこうという動きだが、その一環として写真家、映像作家、華道家らによって展開されてきたのが、福島写真美術館プロジェクト「福島を撮る・録る」である。その活動報告会が福島駅近くの会場で開催された。
まず福島県伊達市で育ち、2013年に「目に見えない」放射能汚染を可視化しようとする「Cesium」シリーズを発表した瀬戸正人と筆者による「クロストーク」があり、その後で「福島を撮る・録る」に参加したアーティストたちが活動の成果を報告した。「福島の自然と自分との距離」をテーマに撮影を続ける赤坂友昭(写真家)、縄文土器に現地で採った花をいける片桐功敦(華道家)、自分の足元を撮影した写真を繋ぎあわせて、津波で流出した家の土台を再構築する安田佐智種(美術家、ニューヨーク在住)、飯舘村の「田植え踊り」伝承しようとしている小学生たちを映像で記録した小野良昌(写真家、映像作家)、そして仮設住宅や幼稚園で写真撮影のワークショップを開催した今井紀彰(写真家)、吉野修(写真家、筑波大学准教授)、近田明奈(コーディネーター)による事業は、どれも彼らのユニークな視点を地域住人たちとの細やかな交流を通じて形にしていったものだ。
このような活動は、2~3年で終わってしまってはまったく意味がない。むしろ震災を契機に、福島を写真・現代美術の重要な拠点のひとつとして育て上げていくべきではないだろうか。

2014/01/25(土)(飯沢耕太郎)

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