artscapeレビュー

大石茉莉香「Q0Q0Q0Q0Q0Q0Q0Q0Q0…」

2015年07月15日号

会期:2015/06/23~2015/06/28

KUNST ARZT[京都府]

大石茉莉香はこれまで、崩壊する世界貿易センタービルや市街地を飲み込む津波など、メディアに大量に流通した報道写真を巨大に引き延ばし、解像度の粗い画像の上に銀色のペンキでペインティングする作品を発表してきた。本個展のタイトルは、画像の構成単位であるセルやドットを、Questionを意味する「Q」の形へと変換する行為を意味すると考えられる。
出品作に用いられているのは、東日本大震災直後に「ひび割れた日の丸」のイメージを表紙に掲載した米誌「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」の画像と、それに対する在ニューヨーク総領事館の抗議を伝える新聞記事。外部からの客観的な視線と、共同体内部での象徴的存在。同じ記号をめぐる反対の視点を効果的に対置し、その視差を浮かび上がらせる。だが、メタリックな銀色のペンキの滴りで覆われたそれらは、下に隠されたものを「見たい」欲望をかき立てつつ、光の反射によって見ることは阻まれてしまう。
また、壊れたTVに、「日の丸」の映像、地上波放送、電源ONの状態の画面が映し出されるインスタレーションも展示された。液晶が死んだ部分が黒くなり、ひび割れのようなラインが走り、色とりどりのバーに浸食されていく画面。地上波放送を流しているはずの画面は、サイケデリックな映像の波と化す。瀕死状態の画面は、メディアの末期症状への比喩となる。メディアの透明性への疑いを、美しくすらある壊れ方で示すこと。TV番組を流す画面を磁石で変調させた、ナム・ジュン・パイクのヴィデオ・アート作品《プリペアドTV》を想起させる。
「社会的共有」を目指して配信され、「情報」として浸透したイメージの表面に裂け目を入れ、印刷されたドットやセルの集合、電気信号で構成されていることを露呈すること。物質性へと還元しつつ、そこに美的な相を見出すこと。大石の作品は、描画という身体的行為/機械の故障による偶然性の介入という2つの方法を用いて、メディアの透明性に対する批評の強度を獲得していた。

2015/06/28(日)(高嶋慈)

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