artscapeレビュー
ドクメンタ13
2012年10月15日号
会期:2012/06/09~2012/09/16
フリデリチアヌム美術館+ドクメンタハーレ+オットネウム+ノイエガレリー+カッセル中央駅[カッセル(ドイツ)]
フランクフルトからICE(特急)でカッセル・ヴィルヘルムスヘーエ駅へ。以前は旧市街に近いカッセル中央駅に着き、ドクメンタ会場まで歩いて行けたのに、いつからかICEがずっと手前のヴィルヘルムスヘーエ駅にしか止まらなくなったため不便になった。トラムに乗ってフリデリチアヌム美術館前のチケット売場に行くともう行列が。ドクメンタも最終週のため駆け込みが多いのだ。今回は会場が美術館を中心に中央駅や市内数カ所のビル、広大なカールスアウエ公園にも広がっているので3日間は必要だといわれていた。まずは美術館の1階奥の「脳」と呼ばれる部屋から。ここはドクメンタ13のエッセンスがつまっている核心部らしいのだが、行列ができて30分ほど待たされてようやく入室。まずは陶器が並んでいて面食らう。その陶器を描いたモランディの絵も展示され、作品全体が関連し合っているようでもある。あとはマン・レイとリー・ミラーの作品、戦災で破損した彫刻、エジプト革命の引き金となった映像、アウトサイダーアートみたいな作品も。どういうセレクションかと考えてしまうが、それだけに期待感も高まる。その左右に伸びる大きなギャラリーはほとんど空っぽで、次のギャラリーに移ろうとすると肌に風を感じる。この「そよ風」がライアン・ガンダーの作品。なんと贅沢な使い方。ほかに気になったものを挙げると(未知の作家はアルファベット表記)、70年代にアフガニスタンで織らせたアリギエロ・ボエッティの世界地図のタペストリー、戦前ナチスに抵抗したKorbinian Aignerが第1次大戦前から約半世紀にわたって描き続けた絵葉書大のリンゴの絵、アメリカの歪んだ日常風景を木彫したLlyn Foulkesのジオラマ的レリーフ(彼は奇妙な楽器の発明でも知られ、オープニングで演奏した)、昨年パレスティナに初めてピカソの絵が展示されたときの様子を撮ったKhaled Houraniの映像、アウシュヴィッツで虐殺されたユダヤ系ドイツ人Charlotte Salomonが潜伏中に描いた水彩画の一部、などなど。すぐ気づくのは、有名作家や人気作家が少ないこと(知ってるアーティストは全体の1割強しかいなかった)、名前は知っていても、モランディのように物故作家で、しかもモダンアートの主流から外れたアーティストが入ってること、戦争・戦災に関連した作品が多いこと、以上の結果、アートマーケットに乗りそうにない作品が多数を占めていること。この時点で今回のドクメンタがただならぬものであることを感じた。このあとドクメンタハーレ、オットネウム(自然史博物館)、ノイエガレリー、中央駅を訪問。西洋名画のコピーなどを壁いっぱいに展示したYan Leiの絵画インスタレーション、木の板をくり抜いて標本化する18世紀の方法を甦らせたマーク・ダイオンの「木の図書館」、1935-85年の『ライフ』誌から図版を切り抜いて時代順に並べたGeoffrey Farmerの「影絵人形」、駅の横の建物内を迷路のように仕立て上げたHaris Epaminonda and Daniel Gustav Cramerのインスタレーションなど。これらの会場はフリデリチアヌムほど凝縮してないし、謎めいてもいないが、それだけに楽しめる作品も少なからずあった。
2012/09/10(月)(村田真)