artscapeレビュー
岡田敦「世界」
2012年10月15日号
会期:2012/09/08~2012/10/04
B GALLERY[東京都]
木村伊兵衛写真賞はよく「写真界の芥川賞」と称される。この言い方が適切かどうかは微妙な所だが、両賞とも新人作家が自分の作品世界を広く世に問うていくきっかけとなっていることは間違いない。同時に、その受賞が本人のその後の活動を大きく左右していくことも多々ある。つまり、受賞をきっかけとして飛躍していく作家も、逆に賞の重みに押し潰されてしまう作家もいるというわけだ。
2008年に写真集『I am』(赤々舎)で第33回木村伊兵衛写真賞を受賞した岡田敦はどうかといえば、受賞後もコンスタントにいい仕事をしているひとりだろう。受賞後第一作の『ataraxia』(青幻舎、2010)もしっかりと組み上げられたシリーズだったが、今回赤々舎から写真集として刊行され、B GALLERYで展示された「世界」からも、彼が自分の作品世界の幅を広げようとしている意欲が充分に伝わってきた。このシリーズは、岡田が「不確かな世界を認識する」ことをめざして蒐集した、複数のシークエンスの集合体として構成されている。眼を中心にした顔のクローズアップ、リストカッターの少女(ヌード)、沼と森、赤ん坊の誕生、火葬場の骨、花火、樹間の眺め、妊娠中の女性(ヌード)、そして震災後の海辺の光景などが、次々に観客の前に呼び出されていく。技術的にもきちんとコントロールされ、前後の関係性を注意深く考えながら並べられたそれらの画像群は、現時点での彼の世界観を着実にさし示しているといえる。
だが、おそらく生と死、美と現実、エロスとカタストロフィなどを表象するはずのそれらの画像を見ていると、既視感というか、どうもすべて「想定内」に思えてきてしまうのも事実だ。この優等生的な予定調和を踏み破っていく、何か荒々しい力を召喚しないことには、岡田が今後さらに大きく飛躍していくことはできないのではないだろうか。
2012/09/18(火)(飯沢耕太郎)