artscapeレビュー
藤岡亜弥「離愁」
2012年10月15日号
会期:2012/09/09~2012/09/29
AKAAKA[東京都]
藤岡亜弥には『さよならを教えて』(ビジュアルアーツ、2004)という名作がある。フランソワーズ・アルディの物憂いメロディの名曲にのせて、エストニアからフィンランドへ、さらにヨーロッパ各地を彷徨うロード・ムービーのような写真集だ。藤岡にはむろん『私は眠らない』(赤々舎、2009)のような、ひとつの土地に根ざしたいい作品もあるのだが、僕はどちらかというと彼女の「旅もの」の方が好きだ。
今回AKAAKAで展示された「離愁」もブラジルへの旅の産物である。藤岡の祖母はブラジル移民の二世で、20歳のときに日本に帰国した。その遺骨をかかえ、60年前の親友「文江さん」の行方を探して、彼女は2002年と2011年の二度にわたってブラジル各地を旅する。会場にはその間に撮影した42点の写真と、昔の思い出を語る日系人たちを撮影したビデオの画面をプリントアウトした画像、彼らの肉声を起こしたテキストが展示してあった。
結局、「文江さん」はすでに亡くなっており、いまや四世の代になっている日系人たちとの交流も、中途半端なものにならざるをえない。だが旅では多くの場合、当初の目的が達成されることはなく、宙吊りの気分のままに時が過ぎていくのではないだろうか。そんななかで少しずつ形をとり、旅の時間を侵食していく「離愁(サウダージ)」の感情が、微妙に揺らぎつつ連続していく写真群に色濃くまつわりついているように見える。いまのところ、写真集になる予定はないようだが、ちょうど『さよならを教えて』のように、テキストと写真とが絡み合って進行していく幻の写真集が見え始めているように感じた。
2012/09/27(木)(飯沢耕太郎)