artscapeレビュー
鋤田正義「SOUND & VISION」
2012年10月15日号
会期:2012/08/11~2012/09/30
東京都写真美術館 地下1階展示室[東京都]
鋤田正義もまた、1970年代以降の日本文化、特に音楽、映画などのジャンルと深く関わりあいながら仕事を続けてきた写真家である。フリーランスの写真家として独立したのが、まさに1970年。それから寺山修司率いる天井桟敷の「毛皮のマリー」ニューヨーク公演撮影を皮切りに、70年代を疾走していく。T REX、デヴィット・ボウイ、サディスティック・ミカ・バンド、沢田研二、そしてYMOに至る写真群は、そのまま日本の文化シーンの最尖端部分の断面図といってよいだろう。
今回の東京都写真美術館の展示は、レコードジャケットやポスター、映画のスチル写真などに使用されたイメージを柱にして、鋤田自身のプライヴェートな写真の仕事をちりばめる形で構成されていた。それぞれ「Early Days/母、九州、大阪」「70’s/ New York and Rock’n Roll」「Vision1 残像 Spectral」「Vision2 東京画+」などと名づけられた小部屋に分けて展示されたそれらの作品は、鋤田の写真家としての原点と撮影のあり方をよくさし示しており、回顧展にふさわしい内容になっていたと思う。
だが圧巻は、大きなスペースを天井から床までフルに使って展示した「Box作品」と「バナー作品」の部屋だった。写真をフレームに入れて壁にかけるような、当たり前のやり方をとらなかったのが、鋤田の写真のスタイルにぴったり合っていたと思う。ロールペーパーを天井から吊るしたり、大きな箱を床に転がしたりするインスタレーションが、時代の勢いを受けとめて投げ返した力業にうまく呼応しており、展示全体をプロデュースした立川直樹と、会場をデザインした岸健太の力量が充分に発揮されていた。
2012/09/16(日)(飯沢耕太郎)