artscapeレビュー

ファン・エイク兄弟《神秘の子羊》

2012年10月15日号

シント・バーフ大聖堂[ゲント(ベルギー)]

ゲントに来た目的は「トラック」が半分、もう半分はファン・エイクをはじめとする初期フランドル絵画を見るためだったりして。じつは一昨日も《神秘の子羊》と呼ばれる祭壇画が展示されているこの大聖堂を訪れたのだが、そのときは部分的に修復が始まっていて非公開、今日から再び公開されることになっていたのだ。よかったー3日間の滞在にして。この祭壇画、15世紀に兄のフーベルト・ファン・エイクが描き始め、兄の死後、弟ヤンが引き継いで完成させた幅5メートルを超す大作。トリプティクといって中央部と左右両翼の3枚が蝶番でつながり、各部分がさらに複数のパネルで構成され、表裏合わせて計24の画面から成り立っている。現在修復しているのは両翼の左右端にあるアダムとイヴの像と裏面で、ここには白黒の写真が貼りつけられていた。じつはこの絵を見るのはもう3回目なので新鮮味はないが、それでも髪の毛1本1本、木の葉の1枚1枚まで描き尽くそうとする観察力と描写力と忍耐力にはあらためて舌を巻く。最初に見たときには、油彩技法が開発されて間もない時期にこれほど完璧な油絵を描けたということが信じられなかったが、しかしひとたび油彩が事物のリアルな質感描写に最適だとわかれば、極限まで試してみたくなるのが人間というもの。おそらくファン・エイクは恐ろしいほど細部まで描けることに喜びを感じ、寝食を忘れてのめり込んだに違いない。つまり開発まもないからこそ究極まで突っ走ることができたのではないか。だから時代がたつにつれ、画家たちの関心は細部の再現性よりブラッシュストロークの表現性に移っていったのだ。


シント・バーフ大聖堂の前に立つファン・エイク兄弟像

2012/09/15(土)(村田真)

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