artscapeレビュー

井上佐由紀「くりかえし」

2013年06月15日号

会期:2013/03/30~2013/05/12

napp gallery[東京都]

前作の波をテーマとした「意思のない生物」(nap gallery、2012)あたりから、井上佐由紀は果てしなく同じ動きをくり返す自然現象を撮影し始めた。今回の「くりかえし」では、アイスランドの間欠泉の水面に巨大な泡のようなものが盛り上がり、崩れ落ちる様を撮り続けている。たしかに、このような対象をずっと見つめていると、目眩のような感覚とともに、生命の根源に直接触れているような気がしてくる。実際にわれわれの遠い先祖である生命体は、地熱で温度が上がった水の中に誕生し、波間を漂いながら形をとっていったわけで、彼女の写真が与えてくれる安らぎや懐かしさは、もしかしたらそのあたりから来ているのではないかとも思う。
だが今回は、プリントよりも画像のプロジェクションを中心にした展示だったこともあって、作品から受ける感触がやや拡散し、抽象的、概念的に流れてしまっている気がした。会場がやや狭いので、画像を落ち着いて見ることが難しいのだ。むしろ生命の根源へと遡るという彼女のコンセプトを、より徹底させることが必要になりそうだ。とすれば、被写体として人間を再び呼び戻す方がよいのではないだろうか。2009年に刊行された『reflection』(buddhapress)は、海辺で踊る少女を撮影した、爽やかな意欲を感じさせるいい写真集だった。自然の中に人を包み込む、あるいは人の中に自然を満たすための、何かよい方法が見つかるといいのだが。

2013/05/01(水)(飯沢耕太郎)

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