artscapeレビュー

村越としや「木立を抜けて」

2013年06月15日号

会期:2013/04/12~2013/05/11

Taka Ishii Gallery Potography & Film[東京都]

最終日になんとか村越としやの展示を見ることができた。今回の「木立を抜けて」は新作ではなく、2009年に撮影されたもの。余命3カ月と宣告された祖母の写真を撮影しようと、実家のある福島県須賀川に何度も帰っていた。ところが、次第にやせ細っていく祖母の姿をほとんど撮ることができず、「祖母の影を追うように実家周辺を歩いては」6×6判のカメラのシャッターを切っていたという。今回の展示では、祖母が亡くなった後も撮り続けた写真も含めて15点を展示していた。
この欄でも何度か紹介しているように、「3.11」以後に村越の表現力は格段に上がってきている。だがこの展示を見ると、すでに2009年の時点で彼のスタイルはほぼ完成していたことがわかる。親和性と違和感とが微妙にバランスを保った風景との距離感、目にじっとりと絡み付いてくるような湿り気を帯びたモノクロームプリントの質感、なんでもない光景からアニミズム的な気配を感じ取る能力などは、すでにこの頃の写真にもはっきりと表われている。
展示作品のなかに、蛇行して地平に消えていく川を、おそらくは橋の上から撮影した写真があった。その右側の河岸に釣り人らしい白っぽい服装の人物の姿が写っている。遠すぎて顔つきなどはまったくわからないのだが、これまで村越の作品には人の影がほとんどあらわれてこなかったので、その一枚が妙に気になった。ストイックに「風景」に没入していく村越の作品も魅力的だが、そろそろ画面の中に「人」の要素をもっと取り入れていってもいい時期に来ているのではないだろうか。どうもこの釣り人は、村越の分身のような気がしてならない。

2013/05/11(土)(飯沢耕太郎)

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