2020年10月15日号
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artscapeレビュー

2010年三影堂攝影奨作品展 交流 Confluence

2010年05月15日号

会期:2010/04/17~2010/06/15

三影堂攝影芸術中心[中国・北京]

2007年に北京郊外の朝陽区草場地に設立された三影堂攝影芸術中心(Three Shadows Photography Art Centre)が主催して、昨年から始まった三影堂攝影奨。今年もおよそ210名(そのうち女性が4分の1)の写真家たちの力作が寄せられ、フランソワ・エベル(フランス)、エヴァ・レスピーニ(アメリカ)、カレン・スミス(イギリス、北京在住)、飯沢耕太郎(日本)、そして三影堂の創始者である榮榮(ロンロン)(中国)の審査によって、1981年生まれの張暁(ジアン・シアン)がグランプリにあたる三影堂攝影賞に選ばれた。柔らかな色調で現代中国の人物群像を描き出したシリーズで、その若者らしい躍動感のある被写体へのアプローチが高く評価された。ほかにもいい作品が多く、全体的には昨年よりもレベルが上がっているように感じた。ただ、作品の応募点数が去年より100点あまりも減っているのが気になる。広報活動がうまくいかなかったようだが、若い意欲的な写真家たちの活動の受け皿として機能させるためには、もう一工夫が必要なのだろう。見る者をワクワクさせるような作品が、もっと増えてきてよいと思う。
その今年の三影堂攝影奨作品展は、フランスのアルル国際写真フェスティバルと提携した「草場地春の写真祭2010」の一環として開催された。南仏のアルルで毎年7~9月に開かれるアルル国際写真フェスティバルは、1970年のスタートという長い歴史を誇る写真祭だが、それが中国の、まだ国際的にはほとんど知られていない写真センターの活動とリンクするというのは、ひとつの事件といえる。三影堂だけではなく、近年ギャラリーやアーティストのアトリエが急増して「芸術区」として注目されている草場地一帯で、30近い写真展が開催され、シンポジウム、ポートフォリオ・レビュー、スライド・ショー、コンサートなどの多彩な企画が展開されている。
ただこの催しが今後もうまく続くのかが心配だ。というのは、水面下できわめて深刻な事態が起こっているからだ。昨年あたりから、草場地一帯を再開発して、マンションやショッピングセンターを建設しようという動きがあり、「草場地春の写真祭2010」のオープニングの前々日に、三影堂にも正式に土地収用の通告が届いたのだ。つい最近も草場地に近い正陽芸術区で同じような問題が持ち上がり、当局が雇ったと思われる暴漢の襲撃で、日本人を含むアーティスト数名が負傷するという事件が起こったばかりだ。もちろん、表現の自由を求めて、時に政治的に過激な方向に走りがちなアーティストたちの存在は、政府や市当局にとって好ましいものとは言えないだろう。だが今回の事態はそのような「思想弾圧」というよりも、単純にここ10年あまりの不動産バブルによって、企業や住人たちのあいだに湧き上がってきている、手っ取り早くお金を儲けたいという気運に乗じたということのようだ。
だが、せっかく三影堂攝影芸術中心を立ち上げ、「草場地春の写真祭」をスタートさせたばかりの写真家たちにとってはまさに一大事だ。この「草場地問題」の推移は、写真に限らず、中国の現代文化、現代美術の将来を占う試金石になるだろう。草場地には三影堂の建物の設計者で、スケールの大きな美術作品でも知られる艾未未(アイ・ウェイウェイ)のアトリエもある。彼を含めて、アーティストたちがどのようにして自分たちの権利を主張し、活動を続けていくのか、注意深く見守るとともに、できる限りの支援をしていきたいと思っている。

2010/04/17(土)(飯沢耕太郎)

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