artscapeレビュー
2011年09月01日号のレビュー/プレビュー
あこがれのヴェネチアン・グラス──時を超え、海を越えて
会期:2011/08/10~2011/10/10
サントリー美術館[東京都]
「皇帝の愛したガラス」展(東京都庭園美術館、2011年7月14日~9月25日)が、ヨーロッパにおけるガラス工芸の歴史を追う構成になっているのに対し、本展は15世紀を起点にヴェネチアン・グラスの技法や様式がヨーロッパ各地のガラス工芸へ与えた影響を探る。それゆえ、展示の中心はヴェネチアン・グラスへの「あこがれ」のもとに成立したヨーロッパや日本のガラス工芸である。「あこがれ」は技術や様式の模倣となって現われるが、そのありようは地域によって異なる。オーストリアやネーデルラントでは外見もヴェネチアン・グラスに似た製品がつくられる一方で、ドイツやスペインでは技術を取り入れつつそれぞれの地における美意識に基づく新たな美がつくられていったという。16世紀から19世紀前半までにヨーロッパの他の産地に押されて衰退していたヴェネチアン・グラスが、19世紀後半に自らの古典をリバイバルさせたり、ヨーロッパの他の産地の様式を取り入れていったという点はとくに興味深かった。陶磁器の歴史にも見られるが、技術や様式は一方的に伝播するのではなく、相互に影響を与えあい、発展していくものだということがよくわかる。
展覧会最後のコーナーでは日本人を含む現代のガラス作家とヴェネチアとの関係を見る。様式の点でヴェネチアン・グラスを引用する作家もいるが、蓄積された技術を自らの作品に援用する者もおり、その関わりかたはさまざまである。ガラス作家というよりもデザイナーとしてイメージをつくり、制作をすぐれた職人の手に委ねる者もいる。他方で、ヴェネチアのガラス会社も外部のデザイナーを起用して新しい作品づくりに挑戦してきた。「あこがれ」の相互関係をここにも見ることができよう。[新川徳彦]
2011/08/19(金)(SYNK)
プレビュー:田中真吾 個展 識閾にふれる
会期:2011/09/02~2011/09/30
eN arts[京都府]
火をテーマにした平面、立体、写真作品を制作している田中真吾。例えば、紙と木のパネルの一部を燃やした作品「TRANS」は、焼け焦げた紙がつくり出す造形の妙が、炎の動きや時間の経過を連想させ、さらには強さ、脆さ、儚さなどの感情を喚起する。今回は、その「TRANS」だけでなく、写真を用いた「LIGHT」と「TRACE」、紙と漆喰のパネルを炎であぶった「HEAT」の4シリーズを一挙に展示。田中の仕事を体系的に観賞する機会となる。
2011/08/20(土)(小吹隆文)
プレビュー:フィギュアたちの人生
会期:2011/09/03~2011/11/13
ボーダレス・アートミュージアムNO-MA[滋賀県]
「人はなぜフィギュアを、命あるもののように愛し、そして作るのだろう」というシンプルな疑問から端を発し、アーティストや障害を持つ制作者たちがつくったフィギュア作品を集めて紹介する。作家は、石野敬祐、大江正章、勝部翔太、金氏徹平、河野咲子、古賀翔一、デハラユキノリ、BOME(ボーメ)の8名。素材、技法、作風、いずれの面でもバラエティに富む作家・作品が集うので、フィギュアに対する新たな価値観が見つけられるかもしれない。
2011/08/20(土)(小吹隆文)
プレビュー:place and picture─広島、絵画、ギャラリー巡り─
会期:2011/09/06~2011/09/11
広島、大阪、京都、神奈川に在住する8人の画家たちが、広島市内と宮島で同時多発的に個展を開催。複数の会場をひとつのプロジェクトで繋ぐことにより、新たな人の流れやアートへの関心が高まることを画策する。地元以外の人にとっては、普段なかなか情報が伝わってこない広島のアート事情を知る絶好のチャンスでもある。宮島以外の会場は半日あれば回れるエリアに集中しているので、これを機に広島に出かけてみては。
2011/08/20(土)(小吹隆文)
プレビュー:生誕120周年記念 岸田劉生 展
会期:2011/09/17~2011/11/23
大阪市立美術館[大阪府]
「麗子像」などで知られる岸田劉生の生誕120周年を記念した大回顧展。38年という短い生涯のなかで、後期印象派のセザンヌや北方ルネサンスのデューラーから影響を受けた独自の具象表現を模索し、晩年には宋元画や日本の南画、肉筆浮世絵の研究から「でろり」という美意識を生み出した彼の画業を、代表作を中心に、肖像画、風景画、静物画などで振り返る。
2011/08/20(土)(小吹隆文)