2022年12月01日号
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artscapeレビュー

2015年04月15日号のレビュー/プレビュー

澤田知子「FACIAL SIGNATURE」

会期:2015/03/14~2015/04/18

MEM[東京都]

2013年に発表した「SKIN」と「Sign」の2シリーズは、澤田知子が新たな方向に向かいつつあることを示す作品だった。得意技の「セルフポートレート」を封印した「SKIN」、ポップアート的な題材と増殖・並置の手法を探求した「Sign」とも、その表現領域を拡大していこうとする意欲的な取り組みだったのだ。だが今回、同じMEMで展示された新作「FACIAL SIGNATURE」では、ふたたび慣れ親しんだ「セルフポートレート」に回帰している。では、今度の作品が後退しているかといえば、必ずしもそうはいえないのではないかと思う。むしろ「SKIN」と「Sign」の実験を踏まえて、より高度に「人はどのように外見から個人のアイデンティティを特定しているのか」と問いかけ、答えを出そうとしているのだ。
澤田が今回「変装」しているのは「東アジア人」である。韓国人、中国人、台湾人、シンガポール人、モンゴル人らと日本人とは、特に西欧諸国では見分けるのがむずかしいだろう。それゆえ、さまざまな「東アジア人」になるため、髪型、表情、メーキャップなどを微妙に変えていく作業は、これまでよりもさらにデリケートなものにならざるを得なかった。それを可能としたのが、ここ10年余りのメイクやウィグの急速な進化と、澤田自身の経験の蓄積だったことはいうまでもない。結果として、ギャラリーの壁に整然と並んだ、微妙に異なる108枚の「FACIAL SIGNATURE」は、独特の魔術的な効果を発するものになっていた。シンプルな黒バックから浮かび上がる顔、顔、顔を眺めていると、不気味でもあり、ユーモラスでもある、奇妙な視覚的体験に誘い込まれてしまうのだ。
なお、展示にあわせて青幻舎から同名の写真集が刊行されている。

2015/03/18(水)(飯沢耕太郎)

バーネット・ニューマン──十字架の道行き

会期:2015/03/14~2015/06/07

ミホミュージアム[滋賀県]

一度行った者は二度と行けないとされる桃源郷……をイメージしたミホミュージアム、また来たよ。でも最初に来たときには気づかなかったけど、チケット売り場やレストランのあるレセプション棟から、トンネルを抜けて橋を渡り美術館棟に到る道のりは、臨死体験とよく似ている。桃源郷とは死後の世界だったのか。いきなり死後の世界に来てしまいましたが、こんなところでバーネット・ニューマンに出会えるとは思わなかったなあ。
作品はワシントン・ナショナルギャラリーが所蔵する全15点の連作《十字架の道行き》。15点のうち14点は同じサイズ(198×153cm)で、1点だけサイズがひとまわり大きく(205×185cm)、正方形に近いかたちをしていて、これらを8角形の部屋にグルリと並べている。このうち10点には黒の、4点には白の線(または面)が垂直方向に塗られ、大きめの1点には画面の両端に黒とオレンジの垂直線が引かれている。したがってグルッと見回すと、壁の白に矩形のクリーム色がかった白いキャンバスが置かれ、その上に不規則な間隔で黒と白の線(面)が立っている感じだ。色らしい色は1本のオレンジの線のみ。いったいこの連作、どのように見ればいいのか。そもそもなぜ連作なのか、なぜ横長の1枚の画面ではいけなかったのか。そこで完成まで8年を要したという制作プロセスをたどっていくと、おもしろいことがわかる。最初は黒と白のリズムの変化を楽しんでいるようだったが、半分を過ぎたころから絵具を白に変えたり線を面に広げたり、明らかにパターンから外れて冒険し始める。最後のほうの作品(とくに13枚目)はまるで前半の白黒が反転したネガのようだ。つまりここにはモネの連作と同じく時間の推移が表わされており、絵画というものがいかに生成し発展していくかということが見てとれる。言い換えればこの連作のプロセスそのものが連作の主題になっているのだ。
それにしても、なぜ若冲や蕭白など日本美術で知られるこの美術館で、対極ともいえるアメリカ抽象表現主義の作品が展示されてるのか。そのヒントは建築にあった。かつてミホミュージアムを訪れたワシントン・ナショナルギャラリーの館長は、自然に溶け込んだ美術館建築に強く印象づけられ、自館のニューマン作品を貸し出すことになったとき、このミュージアムを思い出したのだという。でもなぜワシントンの館長がわざわざ滋賀県の山奥まで行ったのかといえば、ナショナルギャラリーの東館(現代美術部門)を設計したのが、ミホと同じ中国系アメリカ人I・M・ペイだったからであり、そもそもペイにミホの設計を依頼したのは、創立者がワシントンを訪れたときナショナルギャラリーの東館を見て感銘を受けたからにほかならない。つまりペイの建築を仲介に、ミホミュージアムとナショナルギャラリーは互いにラブコールを送っていたわけ。でもこんな山奥で公開してもヒマなおばちゃんくらいしか見に来ないと思うよ。

2015/03/18(水)(村田真)

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曽我蕭白「富士三保図屏風」と日本美術の愉悦

会期:2015/03/14~2015/06/07

ミホミュージアム[滋賀県]

こちらはいかにもミホミュージアムらしいコレクション展。蕭白の《富士三保図屏風》を中心に、光琳、仙 、応挙らの水墨画、陶器、埴輪、神像などが並んでいる。ずいぶん金をかけた余裕の展示だ。なかでも圧巻が初公開の《富士三保図屏風》。六曲一双の左隻に裾野がギューンとタコの足のように延びた富士山が描かれ、右隻には海をまたいで虹がかかっている。どこからどう見りゃこのように見えるんだろう。まさに「奇想」の画家。それにしても、ミホで三保とは。

2015/03/18(水)(村田真)

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國府ノート2015

会期:2015/03/17~2015/03/29

アートスペース虹[京都府]

滋賀から山科に出て地下鉄で蹴上へ。昨年4月、国際芸術センター青森で個展中に事故死した國府理の資料展が開かれているというので見に行く。國府は自動車を使った作品で知られる関西のアーティストで、青森の個展では密閉空間に自動車を置き、エンジンをかけたまま作業していて倒れたらしい。ギャラリーの壁にはプロペラつきの自転車が飾られ、テーブルには厖大なメモやドローイングが置いてあり、自由に見られるようになっている。自分でいうのもなんだが、故人とは面識もないのになんで見に来たんだろう。たぶん彼が作品制作中に作品のなかで亡くなったからだ。

2015/03/18(水)(村田真)

パラソフィア:京都国際現代芸術祭2015

会期:2015/03/07~2015/05/10

鴨川デルタ[京都府]

先々週の内覧会のとき、最後にスーザン・フィリップスのサウンド・インスタレーションの場所に駆けつけたのに、終了時間の午後6時を回っていたせいか終わっていたガーン。今日はリベンジで、再び賀茂川と高野川の合流点の鴨川デルタと呼ばれる三角地帯にやってきた。この三角地帯を囲む3本の橋の下にスピーカーが設置されているのだが、しばらく待っても雑音以外なにも聞こえてこない。まさか、と思って案内板をよく見たら、30分に1回、2分43秒と記されていた。とりあえず4分33秒でなくてよかった。5時ぴったり、ひとつのスピーカーから清廉な歌声が聞こえてくる。追いかけるように残りふたつからも歌声がかぶさり、美しいカノンに。バスや雑踏、川の音も混じってイイ感じ……と思ったらおしまい。あっという間の作品でした。

2015/03/18(水)(村田真)

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