artscapeレビュー

2015年05月15日号のレビュー/プレビュー

ボイジャー・オブ・ザ・シーズ

ボイジャー・オブ・ザ・シーズに乗船し、博多、済州島、名古屋をまわった。一週間なので、これまででもっとも長い船旅である。全長310m、全幅48m、全高63mのヴォリュームなので、高層ビルよりもデカい。巨大な客船=動く建築を体験したが、ホテル+街並みを模したショッピングモール+シアター+飲食店+テーマパークなどが合体したような複合施設である。数千人が暮らし、随時あちこちでさまざまなイベントが開催されており、もはや海に浮かぶ小さな街という方が正しいかもしれない。

2015/04/26(日)(五十嵐太郎)

飯川雄大「ハイライトシーン」

会期:2015/04/03~2015/04/26

高架下スタジオ・サイトAギャラリー[神奈川県]

仮設壁に何台かモニターを埋め込み、サッカーのゴールキーパーの映像を流している。腹ボテボテのおやじやくわえタバコでボールを処理する兄ちゃんなど、ほとんど草サッカーのゆるいレベルで、ユーチューブでしばしば見られるようなスーパーセーブや珍プレーを期待したら大間違い、ずっと見ててもなにも起こらない。つまらないといえばこれほどつまらないものはない。昨年ベルリンに滞在したときに制作した作品。

2015/04/26(日)(村田真)

山本昌男『小さきもの、沈黙の中で』

発行所:青幻舎

発行日:2014年12月10日

やや前に刊行された作品集だが、山本昌男の新作を取り上げておきたい。山本はどちらかといえば、日本より欧米諸国で評価の高い写真家で、小さいプリントを、「間」を意識しながら、撒き散らすように貼り付けていくインスタレーションで知られている。だが、日本では展覧会を見る機会はあまりなく、アメリカのNazraeli Pressなどから刊行されている写真集も、少部数であるだけでなく絶版になっているものが多い。その意味で、今回青幻舎から代表作をおさめた作品集が刊行されたのは、とてもよかったと思う。
「混沌」、「静謐な気」、「逍遥」、「構築された光」、「超空間時間」、「浄」の6部で構成された作品の並びは、とても注意深く考えられており、ほぼ実物大の写真のレイアウトの仕方に、独特のリズム感がある。山本が書いた序文にあたる文章に、彼の制作の姿勢がよくあらわれているので、引用しておくことにしよう。
「見過ごされそうな小さな物や些細な出来事を発見した喜び、ボタンのかけ違いのような感覚、思わず入り込んでしまった霞の中で立ち位置を失った瞬間などに強く興味を引かれ、こだわってきたことではないかと思っています。[中略]私の作品から、有るのか無いのか分からないくらいの微かな電磁波のようなものが発せられて、弱いけれど弱いからこそ強いメッセージとなり、皆様に届くように願っています。」
こんな写真家がいるということを、ぜひ知ってほしいと思う。

2015/04/27(月)(飯沢耕太郎)

プレビュー:Dance Fanfare Kyoto vol.03

会期:2015/05/29~2015/06/27

元・立誠小学校[京都府]

「ダンス作品のクリエーションを通して、身体の可能性を探る実験の場」として、アーティストと若手制作者によって2013年に立ち上げられたDance Fanfare Kyoto。3回目の開催となる今年は、3企画5作品と上演プログラム自体の数は減ったものの、これまでの蓄積を活かした密度の濃い内容が期待される。
3つの企画を簡単に紹介すると、PROGRAM 01「ダンス、なんや?」は、ヨーロッパ企画の演出家・上田誠と、contact Gonzoの塚原悠也の2人に、それぞれダンスを演出した作品をつくってもらうというもの。個人的に注目したいのが、「contact Gonzoが普段はあえてやらないことを持ち込む」という塚原悠也の演出作品。野外でなく、屋内のリハーサル室で稽古することと、「振付」という言葉を使わずに「動きを細かくデザインする」と言い換えることで、ダンスの定義を異なる角度から問い直す試みを目指すという。
また、PROGRAM 02「美術×ダンス」では、ペインターの指示をダンサーがムーブメントとして表出することで、「絵画」がライブ的に生成されていくという試みが予定されている。PROGRAM 03「ねほりはほり」は、主に非ダンス関係者がインタビュアーとして参加し、振付家との対話を継続して行なうことで、ダンス、身体、クリエーションについての言葉を掘り下げていこうという企画。私は過去3回にわたって、この企画のインタビュアーとして参加しているが、観客という外側の視線でもなくドラマトゥルグという内側の視線でもない不思議な立場から、作品の制作プロセスを眺め、振付家の思考の基底部分や揺らぎを観察するという、とても刺激的な経験をさせていただいている。
Dance Fanfare Kyotoの特徴として、演劇の演出家や音楽家、美術作家など、異ジャンルのアーティストとのコラボレーションワークに積極的に力を入れてきたことが挙げられる。若手アーティストのショーケースという枠組みを超えて、今後の相互活性にどう実を結ぶかが期待される。

公演開催日:2015/05/29~31、04/25、05/17、06/27
*04/25、05/17、06/27の会場は元・立誠小学校以外の会場
ウェブサイト:http://dancefanfarekyoto.info/

2015/04/27(月)(高嶋慈)

プレビュー:アラヤー・ラートチャムルーンスック展「NIRANAM 無名のものたち」

会期:2015/05/18~2015/06/14

京都芸術センター[京都府]

タイ出身の映像・写真作家、アラヤー・ラートチャムルーンスックの作品で強烈に印象に残っているのが、安置された6体の遺体を前に、教師役に扮した彼女自身が死についてのレクチャーを行なう映像作品《クラス》。映像自体の衝撃もさることながら、「死」を未だ体験していない生者が、既に「死」の何たるかを知ってしまった(がゆえにそれについては語り得ない)死者に対して、「死」を語り聞かすという転倒した構造の中に、「共有不可能なものについて、それでもどう語ることが可能か」という真摯な問いがはらまれていたからだ。また、タイの農民たちに戸外で19世紀フランス名画の複製を鑑賞してもらい、自由に会話させた映像作品《ふたつの惑星》もそうだが、彼女の作品の重要な要素として、「コミュニケーションの(不)可能性」が挙げられるだろう。
本個展は、2014年5月~6月にかけて、京都芸術センターと京都市立芸術大学の連携によるアーティスト・イン・レジデンス事業で京都に滞在した際のリサーチに基づいている。京都芸術センターの植え込みに蚊帳でつくった仮設小屋、特別養護老人ホームや動物愛護センター、川沿いに住むホームレスの小屋などの場所で、撮影とインタビューを行なったという。小屋という場所の仮設性、人間・動物ともに死を待つ場所、この世自体が命の仮の宿り、生きてきた記憶を語ること、語りを通して他者と共有すること……さまざまなことをかき立てられる個展になるのではと期待している。

2015/04/27(月)(高嶋慈)

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