artscapeレビュー

2015年05月15日号のレビュー/プレビュー

「月映」展──田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎 TSUKUHAE

会期:2015/04/17~2015/05/31

愛知県美術館[愛知県]

愛知県美術館の企画展は、田中恭吉、恩地孝四郎、藤森静雄が1914年に創刊した木版画の小さな雑誌『月映(つくはえ)』を紹介する。同時代の海外の影響も感じられるが、当時彼らはまだ20代半ばの青年だった。田中は1915年に病いで亡くなるのだが、彼らは死と隣合わせに制作を行ない、大正ロマンの想像力を羽ばたかせながら、文学者とも深く交流した。藤森の絵は暗く、恩地がもっともデザイン的な構図である。

2015/04/30(木)(五十嵐太郎)

若林奮 飛葉と振動

名古屋市美術館[愛知県]

若林奮は、一般的に鉄の彫刻家で知られるが、ランドスケープ的な作品も紹介されており、興味深い内容である。神慈秀明会の神苑は、取材で内部も訪れたことはあったが、流政之の彫刻、ミノル・ヤマサキ、I.M.ペイの建築しか見ておらず、若林の作庭もチェックしておけばよかった。近くのケンジタキギャラリー(会期:2015/04/11~2015/05/23)でも、タイミングを合わせて、若林の小さなドローイングなどを紹介している。

2015/04/30(木)(五十嵐太郎)

ガウディ×井上雄彦──シンクロする創造の源泉

会期:2015/03/21~2015/05/24

兵庫県立美術館[兵庫県]

不思議な展覧会というのが第一印象だ。19世紀から20世紀にかけてスペイン・バルセロナで活動し、サグラダ・ファミリア聖堂やカサ・ミラの設計で知られる建築家、アントニ・ガウディ(1852~1926)と『SLAM DUNK』をはじめ数々の人気マンガを生み出した、漫画家、井上雄彦(1967~)の展覧会である。ちらしによると「奇跡のコラボレーション」だそうだ。ガウディに関しては、彼が携わった建築の図面や写真、模型などの資料をはじめ、ガウディの弟子であったジョアン・マタマラによる肖像画などおよそ100点が、井上の作品は書き下ろしの画、およそ40点が展示されている。昨年7月の東京展にはじまり、金沢展、長崎展を経て神戸での開催となった。このあと、せんだいメディアテークでの仙台展へと巡回する。
コラボレーションというよりも、井上がガウディからインスピレーションを得たといったほうが相応しいだろう。それほどまでに、本展での井上は挑戦的だった。井上は2011年にバルセロナでガウディの足跡を辿り、その作品から「謙虚さ」を感じたという。翌年から本展の企画がスタートし、2014年には井上は1カ月間サグラダ・ファミリアの前のアパートに滞在しカサ・ミラの一室にアトリエを構えて創作に励んだという。和紙に墨というスタイルで、ガウディの肖像や彼の少年期、青年期、老年期のエピソードをマンガ風に描いた。圧巻は、高さ200センチ幅200センチの墨染めの手漉き和紙に、白く浮かび上がるガウディ最晩年の顔を描いた一枚、そして、高さ330センチ幅1,070センチの広大な画面のなかに、生まれたばかりのひとりの赤ん坊を描いた一枚である。墨黒の闇と白い光のコントラスト、そして紙の質感、漫画家として培ってきた感性が惜しみなく発揮されている。さらにいえば、ガウディの死のあとに赤ん坊の誕生で展示を締めくくるというストーリー仕立ての劇的な演出も漫画家らしい。漫画家として、創作家として持てる力をすべて投入する、本展にむかう井上の、そんな謙虚な姿勢もガウディの影響だろうか。
ガウディは90年ほど前に亡くなった、すでに地位や評価が確立した偉人である。とはいえ、代表作のサグラダ・ファミリア聖堂はいまだ建築中だから未完の建築家ともいえる。そこに未知の残余があるからこそ、本展のような実験的な企画が成立したように思う。[平光睦子]

2015/05/04(月)(SYNK)

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カタログ&ブックス│2015年05月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

MEDIA/ART KITCHEN - Reality Distortion Field - AOMORI ユーモアと遊びの政治学

編集:服部浩之
写真:小山田邦哉、国際芸術センター青森
執筆:古市保子、服部浩之、金子由紀子、近藤由紀、野坂徹夫
アートディレクション&デザイン:call and response(榊原彰、小田原史典)
発行:青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC)
発行日:2015年3月25日
サイズ:B5判、104頁

2013年から2014年にかけて、ジャカルタ、クアラルンプール、マニラ、バンコクで実施された「MEDIA/KITCHEN」展から発展して、2014年7月26日〜9月15日に国際芸術センター青森で開催された展覧会の記録集。参加作家は萩原健一、バニ・ハイカル、堀尾貫太、クワクボリョウタ、毛利悠子、ナルパティ・ワンガa.k.a.オムレオ、レオン・アルティス、プリラ・タニア、チャラヤーンノン・シリポン、ファイルズ・スライマン、竹内公太、田村友一郎。個々の作家が持っているメディア環境と現代社会の関係への意識、また日常生活に根ざし、ユーモアを持った創造力が示されている。

青森市所蔵作品展 歴史の構築は無名のものたちの記憶に捧げられる

写真:小山田邦哉
著者:藤井光、齋藤歩、松本篤、服部浩之
編集:服部浩之、藤井光
アートディレクション&デザイン:川村格夫
発行:青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC)
発行日:2015年3月27日
サイズ:B5判変型、80頁

2015年2月7日〜3月15日に青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC)で開催された同名展の記録集。青森市が所蔵する約15,000点に及ぶ生活用品や民具などを一般に広く公開する目的で、2007年から年に一回展覧会が開催されている。3年前からは、学芸員による企画展ではなく、ACACに滞在するアーティストの視点から、新しく地域の資源を読み直す展覧会がつくられている。今回は映画監督/美術家の藤井光による、明治から昭和の高度経済成長期にかけての東北で、日本という国が形成されてきたさまを収蔵品からあぶり出し、アーカイブ・博物館の本質をも再考する展覧会が開催された。

山口小夜子──未来を着る人

編者:東京都現代美術館
著者:天児牛大、生西康典、石井達郎、高木由利子、富川栄、中西俊夫、松岡正剛、藪前知子、山川冬樹
デザイン:松本弦人
プリンティング・ディレクター:栗原哲朗
発行:河出書房新社
発行日:2015年4月30日
価格:2,700円(税別)
サイズ:B5判型、216頁

2015年4月11日〜6月28日、東京都現代美術館で開催している同名展のカタログ。70〜80年代のトップモデル時代、資生堂の専属モデル時代の写真のほか、さまざまなジャンルのクリエイターとコラボレートした記録が掲載されている。また、彼女と協働し、影響を与え合った多彩な顔ぶれによる山口小夜子論が展開されている。

他人の時間|TIME OF OTHERS

編集:橋本梓、村上樹里、佐野明子、古市保子
発行:東京都現代美術館、国立国際美術館、シンガポール美術館、クイーンズランド州立美術館|現代美術館、国際交流基金アジアセンター
発行日:2015年4月10日
価格:1,300円(税別)
サイズ:B5判変型、148頁

崔敬華、橋本梓、ミッシェル・ホー、ルーベン・キーハンの4人のキュレーターの企画展「他人の時間」のカタログ。アジア・オセアニア地域の現代作家18名の作品をとおして、理解できない隔たりを持った「他人」とのつながり、その分断とは何かを問い直す企画展。出品作家は、キリ・ダレナ、グレアム・フレッチャー、サレ・フセイン、ホー・ツーニェン、イム・ミヌク、ジョナサン・ジョーンズ、河原温、アン・ミー・レー、バスィール・マハムード、mamoru、ミヤギフトシ、プラッチャヤ・ピントーン、ブルース・クェック、下道基行、ナティー・ウタリット、ヴァンディー・ラッタナ、ヴォー・アン・カーン、ヤン・ヴォーなど。2015年4月11日〜6月28日、東京都現代美術館で、7月25日〜9月23日、国立国際美術館で開催。

シンプルなかたち:美はどこからくるのか

企画・発行:森美術館
デザイン:松田行正、松本聖士(マツダオフィス)
制作:平凡社
発行日:2015年4月22日
価格:2,500円(税別)
サイズ:A4判変型、208頁

パリ・ポンピドゥーセンター・メスとの共同企画の展覧会の公式カタログ。「シンプルなかたち」として、古今東西の名品から選りすぐった130点に日本独自の展示物60点が加えられている。


2015/05/12(火)(artscape編集部)

プレビュー:大谷能生×山縣太一『海底で履く靴には紐が無い』

会期:2015/06/02~2015/06/14

STスポット[神奈川県]

ハイバイの岩井秀人演出で『再生』を快快が上演するなど(KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ、2015年5月21日~30日)、話題の公演が目白押しのなか、今月ぜひとも紹介したいのはこの1本。チェルフィッチュで活躍する役者・山縣太一が脚本・演出を行ない、主演をミュージシャンで評論家の大谷能生が務めるという謎めいた企画なのだが、本人たちはいたってまじめに演劇の更新を目指している。ひとつの注目点は、はたして40歳を超えた大谷が半年ほどの稽古で役者へと変貌できるのか?にあるのだが、それは同時に、どんなひとでも集中して稽古すれば役者になれるのか?という問いに答える実験でもある。ある意味演劇版「ライザップ」みたいなところもあるけれども、もっと注目すべきは、チェルフィッチュの演劇を体現し続けてきた山縣が、自分の蓄えてきた身体への思考を炸裂させようとしている点だろう。山縣の身体に宿っているのはじつはチェルフィッチュだけではない、彼が師匠と仰ぐ手塚夏子の身体論こそ、この演劇を動かす原動力となっている。毎夜、豪華なゲストを招いたアフタートークが用意されているのも気になるところだが、大谷と山縣の思いとしては、ゲストとしっかり演劇やパフォーマンスなるものについて議論したいのだそうだ。そうした模様は、ぼくがディレクターを務めるBONUSサイト上にて随時まとめる準備をしている。そう、この企画にはいつのまにかぼくも一枚噛んでおり、すでに公開しているインタビューなど、この企画をフォローする役回りを担当している。先日も稽古を見に行ってきたところだ。ぼく個人は、役の与えられるのを「待つ」という意味で基本的に受け身の役者が、主体的に演劇を「作る」側に回ったことに興味を惹かれている。さて、その顛末やいかに。


稽古場インタビュー:大谷能生×山縣太一「海底で履く靴には紐が無い」(ウェブサイトBONUS)

2015/05/15(金)(木村覚)

2015年05月15日号の
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