artscapeレビュー

2016年01月15日号のレビュー/プレビュー

RooTS Vol.03 寺山修司生誕80年記念「書を捨てよ町へ出よう」

会期:2015/12/05~2016/12/27

東京芸術劇場シアターイースト[東京都]

藤田貴大・演出『書を捨てよ 町へ出よう』@東京芸術劇場。ライブで解体と再構築を続け、次々と空間が変容していく舞台装置、実験的な映像や生ドラムによる演奏の挿入、ファッションショーのようなセンスのある衣装、メタと解釈、存在感ある俳優など、めまぐるしい勢いで進行する。ただし、あまりに内容を断片化しており、もとの寺山修司の映画を知らないと、物語としてはついていけないかもしれない。

2015/12/11(金)(五十嵐太郎)

ジョルジョ・モランディ ─終わりなき変奏─

会期:2015/12/08~2016/02/14

兵庫県立美術館[兵庫県]

卓上の静物画や風景画など、限られた主題を描き続けたことで知られるジョルジョ・モランディ(1890~1964)。筆者は、25年前(1990年)に京都国立近代美術館で行われた個展で、はじめて彼を知った。その際、変奏曲のように少しずつ姿を変えていく静物画に深く感じ入ったことを、今でも鮮明に覚えている。彼の作品は具象画だが、絵画を構成する種々の要素を分解・再構成した趣があり、抽象画やコンセプチュアルアートとして解釈することもできる。その多面性・奥深さが当時の自分を捉えたわけだが、四半世紀の年月を経て再会したモランディの作品は、当時と同じ輝きをもって眼前に鎮座していた。本展に限らず、著名な美術家の企画展は数十年に一度しか行なわれないケースがままある。気になる企画展は無理をしてでも見ておくべきだと、あらためて実感した。

2015/12/11(金)(小吹隆文)

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横尾忠則 幻花幻想幻画譚

会期:2015/12/12~2016/03/27

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

瀬戸内晴美(寂聴)が1974~75年に新聞連載した時代小説『幻花』。横尾忠則が担当した同作の挿絵原画371点を、はじめて一堂に展示したのが本展である。小説は室町幕府の衰退を一人の女性の視点から綴ったものだが、横尾は彼らしい自由奔放なスタイルで挿絵を制作。映画のように同じ場面を少しずつ変化させていくかと思えば、キリスト、UFO、瀬戸内自身を登場させる、原稿が出来上がる前に挿絵を描いてしまうなど、実験的な手法を次々と繰り出していた。原画は約8センチ×14センチと小さいが、作品の出来が素晴らしいため、まったく気にならない。本作は横尾自身が「技術的・体力的に、もう二度とできない」、「自身のイラストレーションの総決算」とまで語った自信作であり、出版から約40年を経ての全点初公開に興奮を禁じ得なかった。

2015/12/11(金)(小吹隆文)

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リフレクション写真展

会期:2015/12/08~2016/12/19

表参道画廊+MUSEE F[東京都]

湊雅博がディレクションする「リフレクション写真展」も、今年で8回目になるのだという。場所を変えながら「風景」をモチーフにした写真作品という枠組みを守って続いてきたが、今回は東京・原宿の表参道画廊+MUSEE Fで、阿部明子、榎本千賀子、田山湖雪、由良環という4人の女性写真家たちが参加して開催された。
いつもだと、それぞれが自分のテーマで作品を発表する「個展」の集合体という形式なのだが、今年はもっと展覧会としての狙いがはっきりしていた。榎本が新潟(「砂の都市から」)、田山が静岡県の藤枝(「水くぐり」)、由良が東京・羽田空港周辺(「都市の余白─羽田を歩く」)で撮影したシリーズを発表し、阿部がそれぞれの土地のイメージを重層的にコラージュさせた作品(「田・藤枝・新潟・羽」)をそれらに付け加えていく。実際の展示も写真家個々の名前は表示せずに、互いの写真が重なりあい、浸透するようなかたちに組みあげられていた。
そのもくろみが完全に成功していたかどうかは、やや微妙だと思う。解説抜きだと展示・構成のコンセプトがうまく汲み取れないだけでなく、3つの土地のそれぞれから立ち上がってくる気配が、やや強引な写真の配置によって、むしろ希薄になっているようにも感じた。それでも、このような相互浸透的な「コラボレーション」の試みは、彼女たちの写真家としてのキャリアにおいて、貴重な経験になっていくのではないだろうか。次年度以降のさらなる展開を期待したい。

2015/12/11(金)(飯沢耕太郎)

Ultra Picnic Project「写真の使用法──新たな批評性に向けて」

会期:2015/12/05~2016/12/19

東京工芸大学中野キャンバス3号館ギャラリー[東京都]

「Ultra Picnic Project」は東京工芸大学と武蔵野美術大学による共同研究プロジェクトで、「デジタル環境下における様々な写真の使用法を考察・研究することで、近代写真が追求してきた価値を再考し、これまでとは異なる写真表現の可能性や価値観、教育の可能性を探る」ことを目的として「1年間限定」で展開されてきた。その成果を発表する作品展が「写真の使用法──新たな批評性に向けて」で、プロジェクトの参加メンバーが「批評性」を基準に出品作家を選考し、以下の作家たちの作品が東京工芸大学中野キャンバス3号館のロビー・スペースで展示された。稲葉あみ(高橋明洋推薦)、金村修(圓井義典推薦)、かんのさゆり(丸田直美推薦)、水津拓海(坂口トモユキ推薦)、寺崎珠真(小林のりお推薦)、早川祐太+高石晃+加納俊輔(大嶋浩推薦)の5人+1組である。
かんのさゆりや寺崎珠真のようにキャリアの転換点になるようなクオリティの高い作品を出品している作家もいて、面白い展示だったのだが、何といっても水津拓海の仕事を初めて見ることができたことがよかった。1976年生まれの水津は「年間300日以上秋葉原に滞在して秋葉原とアキバ周辺の文化を撮影している」のだという。秋葉原を訪れる外国人の観光案内にも携わっている。そういう「アキバオタク」の極致というべき眼差しのあり方が、細部まで異常に鮮明な展示作品の、隅々まで浸透していることに驚嘆した。とはいえ、彼の撮影の手法そのものは、むしろ正統的な都市のスナップショットを踏襲している。会場で水津と話していて、彼が土田ヒロミの1970~80年代の都市群集スナップの傑作『砂を数える』(冬青社、1990)に言及したのが興味深かった。土田のフォークロア=人類学的なアプローチが、意外なかたちで受け継がれているということだろう。

2015/12/11(金)(飯沢耕太郎)

2016年01月15日号の
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