artscapeレビュー
2016年01月15日号のレビュー/プレビュー
小沢剛展 帰って来たペインターF
会期:2015/10/23~2015/12/27
資生堂ギャラリー[東京都]
パリで名声を確立した「ペインターF」は戦争勃発で日本に戻り、戦争画を制作。終戦になるとパリならぬインドネシアのバリ島に赴き、そこで人生を全うした。……はずなのに、数十年後ふたりのFが帰国して、再び戦争が勃発。ひとりは逃げ、ひとりは芸術の力で平和な世界をつくろうとしたが、うまくいかなかった……といったストーリーを、ふたりのインドネシアのストリートペインターに4点ずつ描かせている(前半の4点はほとんどモノクローム、後半は着色だが、時間が足りなかったのか中途半端に終わっている)。各画面は戦争画の標準サイズとほぼ同じ200号程度。「ペインターF」とはもちろん藤田嗣治のことだが、最後に付け足しのように登場するふたりのFは、藤田のように時代の波に乗ることができなかったアーティストの選択肢を示しているようだ。それにしてもゆるいなあ。物語から作品制作まで多くの人とコラボレーションしたせいか、ストーリーもゆるいが、絵もゆるい。このゆるさが小沢らしいといえばらしいけどね。
2015/12/01(火)(村田真)
廣江友和「Hellish Toy Story──地獄草紙より」
会期:2015/11/20~2015/12/05
メグミオギタギャラリー[東京都]
《地獄草紙》に描かれた火炎をモチーフに、フィギュア風の兵隊を立体的に描き加え、やまと絵のフラットな表現と西洋の3次元的描写を共存させている。壁には火炎と鳥獣戯画風の動物たちを直接描いた壁画も。奇妙なのは、絵全体をビニールでぴったり包んでいること。画面を守るためのニス代わりらしいが、なんか工業製品みたい。それはともかく、この展覧会を見に行ったのは、DMにも使われていた藤田嗣治の《アッツ島玉砕》のパロディがあったから。《アッツ島玉砕》に描かれた兵士たちを地獄草紙の餓鬼どもとフィギュアの兵士に置き換えたもので、立体感のあるフィギュアが米軍、平坦な描写の餓鬼どもが日本軍か。いまや《アッツ島玉砕》も気軽にパロれる素材になったようだ。というわけで、今日は藤田特集でした。
2015/12/01(火)(村田真)
Re: play 1972/2015 ─「映像表現’72」展、再演
会期:2015/10/06~2016/12/13
東京国立近代美術館 企画展ギャラリー[東京都]
京都で開催された「映像表現’72」展の再現を試みた企画である。永続的に残っていく絵画や彫刻と違い、モノとして残らない映像のインスタレーションをどう復元するかが興味深い。回廊のようになった周囲の通路に当時の資料と復元のための探求プロセスなどを配し、中央には京都の会場を90%に縮小再現した場を設けている。西澤徹夫が会場構成を担当しているが、気づくと国立近代美術館で彼の手がけた展示デザインを結構見ている。これも建築家の新しい仕事だろう。
2015/12/02(水)(五十嵐太郎)
MOMAT コレクション 特集:藤田嗣治、全所蔵作品展示。
会期:2015/09/19~2016/12/13
東京国立近代美術館 所蔵品ギャラリー[東京都]
東京国立近代美術館では、2フロアを使う常設の特集「藤田嗣治、全所蔵作品展示。」が圧巻だった。企画展のような存在感である。ただし、生涯すべての作品がまんべんなくあるわけではなく、彼がブレイクする前のパリ時代の試行錯誤や器用な模倣などの作品はない。戦後に批判されることになったが、やはり、結果的に社会と絵画の「歴史」と接続してしまった巨大な戦争画は彼のキャリアにおいて頂点というべき作品だと思う。
2015/12/02(水)(五十嵐太郎)
小沢剛 展 帰って来たペインターF
会期:2015/10/23~2016/12/27
資生堂ギャラリー[東京都]
Fは藤田嗣治を暗示するイニシャルだが、パリならぬバリで地元と交流した架空の従軍画家の物語を展開させている。絵そのものを藤田と比較すると、どうしても弱いが、インドネシアの歴史家、画家、音楽家と共同で調査・制作し、音楽付きの映像作品を生み出したことが成果だろう。
2015/12/02(水)(五十嵐太郎)