artscapeレビュー

2016年06月15日号のレビュー/プレビュー

内藤廣《JR高知駅》ほか

[高知県]

日本建築家協会四国支部大会2016「その日のためのまちと建築」の基調講演を行なうために、高知へ。以前、Rizzoliからルイ・ヴィトン本の原稿を依頼されて、乾久美子の手がけた店舗を訪れて以来だから、8年ぶりの訪問である。が、ルイ・ヴィトンは撤退し、当初の面影がない改造がなされたようだ。一方、《高知駅》は内藤廣の設計によるダイナミックな建築に姿を変えていた。彼らしい架構形式が空間と表情をつくっている。

写真:《高知駅》

2016/05/21(土)(五十嵐太郎)

川内倫子「The rain of blessing」

会期:2016/05/20~2016/09/25

Gallery 916[東京都]

東京ではひさびさの川内倫子展。もはや、どんなテーマでも自在に自分の世界に引き込んでいくことができる、表現力の高まりをまざまざと示すいい展覧会だった。展示は4部構成で、2005年刊行の写真集『the eyes, the ears,』(フォイル)の収録作から始まり、2016年1月~3月に熊本市現代美術館で開催された「川が私を受け入れてくれた」の出品作に続く。次に昨年オーストリア・ウィーンのクンスト・ハウス・ウィーンで開催された個展「太陽を探して」からの作品のパートが続き、最後に新作シリーズ「The rain of blessing」が置かれている。
どの作品も充実した内容だが、特に「川が私を受け入れてくれた」の、言葉と映像との融合の試みが興味深い。熊本で暮らす人々に「わたしの熊本の思い出」という400字ほどの文章を綴ってもらい、その内容をもとにして川内が撮影場所を選んでいる。会場には写真とともに、川内がそれぞれの文章から抜粋した短い言葉が掲げられていた。謎めいた、詩編のような言葉と、日常と非日常を行き来するような写真とが絶妙に絡み合い、なんとも味わい深い余韻を残す作品に仕上がっている。新作の「The rain of blessing」は、出雲大社の式年遷宮、ひと塊になって飛翔する鳥たちの群れ、熱した鉄屑を壁にぶつけて火花を散らす中国・河北省の「打樹花」という祭事の三部作である。出来事のなかに潜んでいる「見えない力」を引き出そうとする意欲が伝わってくる、テンションの高い写真群だ。別室では同シリーズの動画映像も上映されていて、こちらも見応えのある作品に仕上がっていた。
川内が日本を代表する写真の表現者として、揺るぎない存在感を発しつつあるのは間違いない。今後は、欧米やアジア諸国の美術館での個展も、次々に実現できるのではないだろうか。むしろ彼女の作品世界をひとつの手がかりとして、「日本写真」の輪郭と射程を測ってみたい。

2016/05/22(日)(飯沢耕太郎)

WALLS TOKYO COLLECTION

会期:2016/05/10~2016/05/23

代官山蔦屋書店1階ギャラリースペース[東京都]

バンクシー、バリー・マッギー、カウズらストリートアーティストの売り絵。バンクシーはエディション600のシルクスクリーン作品なのに、1点200万円とダントツに高い。こんなの買うやつの気がしれないが、その売り上げが次のプロジェクトの資金になるのであれば反対はしない。

2016/05/22(日)(村田真)

東北──アートの博物学

会期:2016/05/10~2016/07/05

代官山蔦屋書店2階Anjin[東京都]

美大は中央から離れれば離れるほど特色が際立ってくるようで、とりわけ東北芸工大は土着色が著しい。今回は陶芸が多いので余計その傾向が強いのかもしれないが、なにか学校全体が反文明、東北回帰のメッセージを発しているような気もする。鴻崎正武は幅8.8メートルの巨大画面に、古今東西の動植物やロケットなどをコラージュ風に散りばめた《TOUGEN─希望の彼方》を出品。「TOUGEN」とは桃源郷に由来するが、金箔を用いたり屏風絵みたいな形式だったり、日本画っぽいけど洋画だったり。でもおそらく「東北画」なんでしょうね。高妻留美子はヒトデのミイラや蓮と種子などを陶で倍くらいの大きさにつくり、本物と並べている。拾ってきた自然物をマジマジと観察し、描きとめておく博物学の態度を思い出させる。

2016/05/22(日)(村田真)

大原治雄写真展 ─ブラジルの光、家族の風景

会期:2016/04/09~2016/06/12

高知県立美術館 第2・3展示室[高知県]

高知県立美術館「大原治雄写真展 ─ブラジルの光、家族の風景」展。全然知らない人だったが、とてもよい内容である。高知生まれで農業移民としてブラジルに移住し、趣味でカメラを触るようになった。ブラジルの変遷、家族の姿、風景、作業具をモダンな視線で見事にとらえている。辺境の地における近代の受容のされ方としても興味深い。同館では、パラオで美術教育/制作などを行なった土方久功展が開催中で、石元泰博の常設もあり、高知ゆかりの作家の海外展開を紹介している。ところで、ホールも抱えた巨大施設は、ぎりバブルの恩恵を受けた愛知芸術文化センター的なヴォリューム感。またデザインは伝統的要素を組み込み、ポストモダンの時代を反映している。設計は日本設計、山本長水らによるもの。

写真:高知県立美術館

2016/05/22(日)(五十嵐太郎)

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