artscapeレビュー

2016年06月15日号のレビュー/プレビュー

プレビュー:新聞家『帰る』

会期:2016/07/08~2016/07/11

NICA (Nihonbashi Institute of Contemporary Arts)[東京都]

昨年の1月から新聞家を見ている。作家の村社祐太朗のことは「モダニスト」と思っている。「方法意識が高い」といった程度の意味だが、その徹底ぶりはそんな大仰な呼び名をつい用いたくなるほど。役者が立ち、声を発し、やがて歩いて出て行くまでを、可能な限り「たまたまそうした」という程度の振る舞いにはならないよう村社は強く念じている。そう見える。とはいえ、張り詰めた舞台には、実は滑稽さがつきもの。「なぜ声が出るのか」への考察が深まると、声が出ることと出ないこととの間の薄皮一枚が気になってくる。薄いが皮には厚みがあって、そのありさまがほどかれると、ときに悶絶を禁じ得ぬほどおかしい。今回の上演に際してウェブ上で公開している「『帰る』に寄せて2 「単純化」」でも、そんな「薄皮」を村社は話題にしている。こういう些細すぎて、吹けば飛ぶような何かが人のうちにあるということを、そっと確認するように客に耳打ちしてくれるのが演劇というものならば、そしてその演劇に期待して、そう多くはないが、きちんと適度な数の人たちが客席を埋めるのならば、演劇には今日も存在意義があるように思う。あと、いつも会場を吟味して、美術の作家と共作して、毎度異なる方法上のチャレンジをちゃんとやっているのが素晴らしい。「演劇」をテンプレートとして全く捉えていない。だから見ていられるのだ。

関連レビュー

新聞家『スカイプで別館と繋がって』:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape
新聞家『川のもつれホー』:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape

2016/06/13(月)(木村覚)

カタログ&ブックス|2016年06月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

日本おとぼけ絵画史──たのしい日本美術

著者:金子信久
発行:講談社
発行日:2016年3月3日
定価:2,600円(税別)
サイズ:A5判、192ページ

平等院鳳凰堂の阿弥陀如来坐像、運慶の仏像、尾形光琳の屏風──これら「見事な」造形作品とは対極に位置する「へそまがりな感性」に注目しながら日本美術を眺める。きれいなもの、立派なものだけではない、へんてこでややこしい感性から生み出されたもうひとつの日本の美術の数々を、「苦い」「素朴」「ヘタウマ」などのキーワードとともに紹介。いわゆる「日本らしい美術」のステレオタイプな見方をゆるくときほぐす。



エクソダス──アートとデザインをめぐる批評

著者:暮沢剛巳
発行:水声社
発行日:2016年6月2日
定価:3,200円(税別)
サイズ:A5判、331ページ

現代アート/デザイン批評の分野で注目されてきた著者が、新聞・雑誌・展覧会カタログなどに寄せた文章を集成する批評集。現代美術、展覧会、デザインを論じるほか、マンガやアニメの批評も収録。

[商品説明より]


ルノワールの犬と猫 印象派の動物たち

著者:安井裕雄
発行:講談社
発行日:2016年4月21日
定価:1,600円(税別)
サイズ:148×148mm、96ページ

ルノワールを中心に、同時代を生きた画家たちの作品を、そこに描かれる犬や猫などの動物に焦点をあてて紹介。19世紀フランスの多幸感に満ちたぬくもりを、小振りな1冊に凝縮。


「高齢社会における、人生のつくり方。」の本
LIFE IS CREATIVE展ドキュメントブック

企画・制作:デザイン・クリエイティブセンター神戸
アートディレクション&デザイン:TRITON GRAPHICS
発行日:2016年3月
定価:非売品
サイズ:B5判、48ページ

2015年10月にデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)で行なわれた「LIFE IS CREATIVE展」のドキュメントブック。高齢社会に対するクリエイティブなアプローチを探り、実践していく取り組みを報告。「身近な人が認知症になったらどうしますか?」「定年って必要ですか?」「シニアが恋しちゃだめですか?」など、18の問いかけから議論の手がかりを紐解いていく。また、「年をとったら、本を読もう。」をキャッチコピーにした「65歳からのブックリスト」35冊を選書コメント(一部)とともに紹介。


水屋・水塚─水防の知恵と住まい─

企画:LIXILギャラリー企画委員会
アートディレクター:祖父江慎
デザイン:小川あずさ(cozfish)
発行:LIXIL出版
発行日:2016年6月15日
定価:1,800円(税別)
サイズ:A4判変型、84ページ

平野に聳え立つ孤高の雄姿。人の背を越す高さの盛り土や石垣を「水塚」、その上に建てられた蔵を「水屋」という。かつて頻繁に洪水に見舞われた地域には、そこに住む人々の知恵から生まれた水防建築がある。人、食物、大切な家財道具などを避難させ守ってきた。
日本大学理工学部畔柳研究室での約15年にも及ぶ調査研究を土台に、本書では、中部の木曽三川、関東の利根川や荒川、また四国の吉野川流域などの洪水多発地域に見られる身を守るための10種類の建築構造物類を、撮下し図版と代々受け継ぐ持ち主の声を織り込んだ文章で紹介する。人間サイズを超える堤防が造築される昨今、個人や小さな共同体でつくられた水防建築類の今日的意味合いを巻末の論考で語る。川とともにある暮らしにはその動きを柔軟に受け入れる文化があり、その姿は地域のプロフィールとなって美しく印象づける。

ウェブサイトより]

触発するミュージアム──文化的公共空間の新たな可能性を求めて

編著:中小路久美代、新藤浩伸、山本恭裕、岡田猛
発行:あいり出版
発行日:2016年5月1日
定価:2,700円(税別)
サイズ:B5判、266ページ

書名の「触発」とは、「外界の事物に接することで、驚きやワクワク感などの感情が喚起され、モチベーションが高まり、新しいアイデアやイメージが生成されるプロセス」のことである。では、ミュージアムにおける触発とは何か、触発するミュージアムにはどのような条件が関わっているのか、そしてどうやってそれを研究していけばよいのか──。本書はこうしたリサーチクエスチョンを設け、認知科学やデザイン学の視点からの理論的考察や、国内外のミュージアムの現状分析、ミュージアムでの教育普及活動での実践研究など通して「ミュージアムにおける触発」にアプローチする。


共にいることの可能性、その試み、その記録
──田中功起による、水戸芸術館での、ケーススタディとして

企画:水戸芸術館現代美術センター
デザイン:森大志郎
制作・発行:グラムブックス
発行日:2016年3月31日
定価:1,800円(税別)
サイズ:小B6判、216ページ

2016年2月から5月に水戸芸術館現代美術ギャラリーで行なわれた「田中功起 共にいることの可能性、その試み」展のカタログ。ワークショップから展示に至る、「共にいることの可能性、その試み」の軌跡のほか、ふたつの対談(田中功起×毛利喜孝、甲斐賢治×藤井光)および、キュレーターによるテキストを収録。


2016/06/14(火)(artscape編集部)

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