2019年07月15日号
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artscapeレビュー

2010年08月15日号のレビュー/プレビュー

『ライフ』報道写真家が捉えた戦争と終戦 微笑を浮かべて~キャパ、スミス、スウォープ、三木~

会期:2010/06/12~2010/07/31

あーすぷらざ(神奈川県立地球市民かながわプラザ)3階企画展示室[神奈川県]

山梨県の清里フォトアートミュージアムが所蔵する、4人の報道写真家たちの作品、約150点を展示した企画展。そのうちロバート・キャパとユージン・スミスの第二次世界大戦の写真、三木淳のシベリアに抑留されていた兵士たちの帰還のドキュメント(「日本の赤軍祖国に帰る」1949年)は、よく知られているが、今回特に興味深かったのは最近になってようやくその所在が明らかになったジョン・スウォープの写真群である。スウォ─プはアメリカの人気女優、ドロシー・マグワイアと結婚し、ハリウッドの俳優たちのポートレートや、その舞台裏のドキュメントを撮影していた。ところが、第二次世界大戦の勃発とともに軍の広報写真を担当するようになり、1944年にはエドワード・スタイケンが組織したアメリカ海軍航空隊写真班に加わる。1945年8月29日、彼は命令を受けて東京湾から大森に上陸した。連合国の捕虜たちが収容されていた東京俘虜収容所の解放に立ち会い、その様子をカメラにおさめるためである。その後、静岡県新居、浜松、名古屋、仙台、岩手県釜石などを訪れ、捕虜の解放や終戦直後の日本人の表情、街の光景などを克明に撮影していった。スウォープの兵士や民間人の写真を見ていると、ライティングと構図に気を配った、ハリウッドの俳優たちのドラマチックなポートレートのように思えてくる。特にカメラを向けられた日本人たちが無意識的に浮かべた、歓びや哀しみや焦慮の表情は貴重なドキュメントといえるだろう。戦争が彼らに与えた傷跡や、ようやく長い戦いが終わったことの安堵感(それが「微笑」として示される)、さらによりよい未来を希求する決意などが、身振りや表情としてくっきりとあらわれているのだ。どんな言葉でも記述が不可能な、写真でしか語ることのできないメッセージの重みが、これらの写真にはある。

2010/07/18(日)(飯沢耕太郎)

渡邊博史「LOVE POINT」

会期:2010/07/07~2010/07/20

銀座ニコンサロン[東京都]

渡邊博史は『私は毎日、天使を見ている』(窓社、2007)でエクアドルの精神病院を、『パラダイス・イデオロギー』(窓社、2008)では北朝鮮への旅をテーマにした写真集を刊行し、写真展を開催した。そして今回の「LOVE POINT」のシリーズでは、「ラブドール」(いわゆるダッチワイフ)というとても興味深い被写体にカメラを向けている。シリーズごとにまったく違う領域にチャレンジしているわけで、その意欲的な姿勢は高く評価されるべきだろう。とはいえ、彼の基本的な関心が「人間」と「人間ならざるもの」(あるいは「人間モドキ」)との境界線を見定めることにあるのは明らかだ。精神病者にしても、北朝鮮のどこかロボットめいた兵士やウェートレスにしても、そして今回の「ラブドール」たちにしても、どこまでが本物でどこからが偽物なのかが、写真というイメージ生成装置を介することで曖昧に見えてくるのだ。さらに今回はそれに輪をかけるように、「ラブドール」の写真に、生身の少女たちにメーキャップしてコスプレの衣裳を着せてポーズをとらせた写真が紛れ込んでいる。そのあたりの微妙な計算が隅々まで行き届いていて、見る者を謎めいたイメージの迷路に引き込んでいく。なお「LOVE POINT」という印象的なタイトルは、同時期に冬青社から刊行された写真集の表紙にも使われた、店の看板の写真から採られている。渡邊が岐阜県中津川で偶然撮影したものだそうだが、女の子の横顔の上に記されたこの言葉がやはりうまく効いているのではないだろうか。写真を見る者一人ひとりが、そこからそれぞれの物語を育てることができそうに思える。

2010/07/18(日)(飯沢耕太郎)

新収蔵資料展──友禅下絵と乾板写真から

会期:2010/06/26~2010/08/01

立命館大学衣笠キャンパス アートリサーチセンター1階閲覧室[京都県]

チラシのデザインが奇麗で興味をそそられ、初めて足を運んだ。同大学の敷地内にあるアートリサーチセンターが新たに収蔵した近代京都染色の図案(友禅下絵、絵摺)、島原太夫の乾板写真とともに、それらのデジタルアーカイヴと調査の中間報告を展示。京都の伝統産業である友禅染めや西陣織は目にする機会も多いのだが、花街におけるそれらの関連資料を見る機会はあまりなかった。明治維新後、技術や経済の発展を背景にしながら、近代公娼制度の統制と管理のもとで大きく転換した染織業界のあり方を、写真をはじめとする当時のさまざまなメディアから検証・紹介していて興味深い。もっと詳しい丁寧な解説があればさらに理解しやすかったと思うが、今展は中間報告ということなので、またの機会にも期待したい。

2010/07/19(月)、07/29(木)(酒井千穂)

Art Camp 2010

会期:2010/07/24~2010/08/12

サントリーミュージアム天保山(第二会場)[大阪府]

毎年この時期に開催されている学生や若手作家のグループ展。あいにく第一会場は休廊日だったが、塩見友梨奈、藤本絢子、久保田万絵、招待作家の花岡伸宏の4名の作品が展示されたサントリーミュージアム天保山での展示を見る。エントランスホールには、愛玩用に品種改良され、高値で売買される金魚の脆弱性にインスピレーションをうけ、不確かな存在の有様を描き出す塩見の絵画作品、皮膚という表層から溢れ出る感情を染色手法で表現した塩見の作品が展示されていた。曖昧なイメージから触覚などの感覚と過去の記憶を誘発する久保田の作品、花岡の彫刻は4階のテラス付近に。花岡の作品は、天井から吊り下げたものもある。どれも一見バカバカしく可笑しいのだが、時間の経過や状態、その変化をとらえる造形力とユーモアのセンスには唸るものがある。

2010/07/20(火)(酒井千穂)

須田悦弘

会期:2010/06/25~2010/07/31

GALLERY KOYANAGI[東京都]

壁面は余白のまま残し、柱の隅など目立たない場所に植物の木彫を10体ほどインスタレーションしている。モチーフは夏らしくアサガオが中心。もちろん一年中枯れないおトクなアサガオだ。須田といえば植物の木彫が定着したが、これからも植物を彫り続けるんだろうか、それともある日突然、違うものを彫り始めるんだろうか。いずれにせよ須田の作品は超絶技巧の木彫+絶妙なインスタレーションの2段構えだから強い。

2010/07/21(水)(村田真)

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