2020年07月01日号
次回7月15日更新予定

artscapeレビュー

大森克己「すべては初めて起こる」

2012年02月15日号

会期:2011/12/15~2012/01/29

ポーラミュージアム アネックス[東京都]

大森克己の「すべては初めて起こる」は注目すべき写真シリーズだ。「3・11」以後、さまざまな写真家たちの仕事が発表されてきたのだが、そのほとんどはドキュメンタリーの範疇に入る仕事だった。本作品も広義のドキュメンタリーと言えなくはないが、そこには大森の写真家としての表現の意志がかなり強くあらわれてきている。震災という大きな出来事をどう受けとめ、投げ返していくのか。写真に限らずすべての表現ジャンルで問われるべきことだが、その優れた解答のひとつと言えるだろう。
大森は震災直後から自宅の周辺の桜を撮り始める。彼にはすでに桜をテーマにした『Cherry Blossoms』(リトルモア、2007)という写真集があり、ごく自然な身体的反応だったのではないかと思う。次に彼は福島県に向かうことにする。これまた直感的な反応であり「放射能、撮らなきゃって」思ったのだという。ところが、その時点で思いがけない要素が付け加えられた。「East LAのメキシカン・マーケット」で購入したのだという2個の「ピンクの半透明の球体」が、カメラのレンズの前にぶら下げられたのだ。
彼がなぜそんなトリッキーな仕掛けを凝らしたのか、普段の大森の仕事を知っているわれわれにとっては意外としか言いようがない。おそらく、彼自身にもよくわからないのではないかと思う。とにかく大森は「そうしたい」、「そうせざるを得ない」と心に決め、福島の地で桜や津波の跡の光景に向けてシャッターを切った。結果として、写真の画面(すべて縦位置)には奇妙なピンク色の光のフレアーが写り込むことになった。どこに出現するのか予測がつかない、その薄く丸いフレアーを透かして、向うの景色がぼんやりと見えている。
「震災後の桜」という主題は決して珍しいものではない。むしろステロタイプな被写体と言えなくもない。実際、「3・11」以後に撮影された多くの写真に、桜が写っているのを目にしてきた。だが、「ピンクの半透明の球体」のフレアー効果がそこに加わることで、風景が多層化し、「震災後の桜」という意味づけに単純に回収されることのない奥行きが生じてきている。そのことで、このシリーズは大森克己が見た「震災後の桜」としての固有性を獲得していると思う。なお、会場限定で同名の大判写真集(MATCH & Company)も発売された。1万5,000円という値段に見合った堅牢な造本の(でも、重くてとても扱いづらい)ポートフォリオ型の写真集だ。

2012/01/04(水)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00015638.json l 10021620

2012年02月15日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ