2020年07月01日号
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artscapeレビュー

伊藤之一「隠れ里へ」

2012年02月15日号

会期:2012/01/04~2012/01/15

RING CUBE[東京都]

伊藤之一は2000年に博報堂から独立して事務所を構えて以来、広告関係の仕事をするとともに独自の作家活動を展開してきた。その成果は2003年以来『入り口』『ヘソ』『テツオ』『電車カメラ』『雨が、アスファルト』といった写真集にまとめられている。写真集が送られてくるたびに、その明快なコンセプトと画像のセンスのよさに注目していたのだが、どうも写真家としての“芯”の部分がうまくつかめないもどかしさがあった。それが今回の個展を見て、さらにそこに掲げられていた『日本カメラ』編集長、前田利昭の「なにかを準備する写真家」という素晴らしい文章を読んで、少しずつ見えてきたように思う。
「隠れ里へ」というタイトルは、白洲正子のエッセイ「かくれ里」(1971年)を踏まえたものだという。白洲がそこで取りあげている琵琶湖沿岸の東近江地方を、伊藤も撮影している。だが、特に説明的な撮り方ではなく、水、雪、樹木、花々光などをスクエアな画面に断片的に切り取っていくやり方をとる。そのことによって、湖北・東近江という特定の地域に限定されることがない、人里の近くにひっそりと息づいている「隠れ里」の手触りや空気感がしっかりと写り込んでくる。前田が書いているのは,今回の写真群がこれまでの伊藤の作品の軽やかな試行とは違って、「なにか“屈託”のようなもの」を浮かび上がらせ、「“写真の不自由さ”と対峙している感じ」を与えるということだ。これは重要な指摘だと思う。「“写真の不自由さ”」に身を震わせ、もがくことで、写真家としての壁を乗り超えることができるのではないだろうか。少なくとも、ここにはコンセプトを自分の手で無化して(無視ではなく)いこうとする強い意志を感じることができる。

2012/01/04(水)(飯沢耕太郎)

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