artscapeレビュー
菱田雄介「border/McD」
2012年02月15日号
会期:2012/01/18~2012/02/05
Bloom Gallery[大阪府]
写真集『ある日』(プレイスM/月曜社、2006年)、『BESLAN』(新風舍、同)、そして東日本大震災直後に被災地を撮影した「hope/TOHOKU」(『アフターマス 震災後の写真』(NTT出版、2011年所収)。菱田雄介の仕事を見ていると、周到な準備の積み重ねと、コンセプトをかたちにしていくときの果敢な行動力にいつも驚かされる。今回大阪・十三のBloom Galleryで初めてて発表された「「border/McD」シリーズも、撮影を開始したのは1993年というから、かなり時間をかけたプロジェクトだ。
たしかに世界のいろいろな国を旅していると、赤に黄色のMのマークがくっきり浮かび上がる看板のロゴがいやおうなしに眼に入ってくる。現代社会におけるグローバリズムの象徴とも言うべきマクドナルドのハンバーガーショップは、たしかに面白い被写体だ。同じシステム、同じメニューとはいえ、国ごとの経済や文化の差異によって、そのたたずまいも微妙に違ってくる。北朝鮮やイランのように、「アメリカ文化の権化」とみなされて、マクドナルド自体が存在を許されない国もある。菱田のもくろみは、中東、東欧諸国から震災直後に宮城県で撮影したハンバーガーショップまでを比較対照させることで、世界を区切っている、見えない「border」を浮かび上がらせることにある。現在はまだ30カ国余りということだが、もう少し数が増えてくると、さまざまな様相がせめぎあう場所としてのマクドナルド空間のもつ意味が、よりくっきりと浮かび上がってくるのではないだろうか。ただ今のスナップショット的な撮り方だと、自ずと限界もあるようにも感じた。抽出する要素を絞り込み、画面を大きくして、より強度のある写真として提示した方がいいのではないかと思う。
2012/01/29(日)(飯沢耕太郎)