artscapeレビュー

北井一夫「道」

2014年08月15日号

会期:2014/07/02~2014/07/26

禪フォトギャラリー[東京都]

『日本カメラ』に2005~13年にかけて連載されていた「ライカで散歩」のシリーズから、「道」の写真をピックアップした展示である。中心になっているのは、東日本大震災の後の2011年5月から、岩手、宮城、福島などの沿岸部に10回ほど出かけて撮影したもので、普通の道だけではなく、積み上げられた瓦礫の横に、あたかも「けもの道」のように誰かが踏み固めてできた道なども写している。津波によってすべてが押し流された後にも、道は残る、あるいは新たに道ができていく。そのことが、北井の中にあったもう一つの道のイメージを引き出してきた。それは、彼の原記憶というべき旧満州からの引き揚げの時に見たはずの眺めで(赤ん坊だった彼が、実際には覚えているはずはないのだが)、そのことを確認するために中国での撮影を試みた。それが今回の展示のもう一つの柱である「大連発鞍山」の写真群である。

北井が母の背に結わえられて引き揚げてきた時に使ったという、父親の帯の写真なども含む、この「大連発鞍山」の写真が加わることで、何かと何かを結びつけ、繋いでいく「道」の役割がより明確になった。東北の道は中国へと続いていたわけだ。だが、最初からこんな風に構成しようと考えていたわけではなく、写真を選んでプリントしているうちに全体の構想が固まってきたのだという。まさに、道を歩きながら考えていくようなこの作品の成立のあり方は、自然体で澱みがないだけではなく、強い説得力を備えていると思う。

2014/07/02(水)(飯沢耕太郎)

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