artscapeレビュー
岡村明彦の写真 生きること死ぬことのすべて
2014年08月15日号
会期:2014/07/19~2014/09/23
東京都写真美術館3階展示室[東京都]
『ライフ』(1964年6月12日号)に南ベトナムでの戦闘場面を撮影した写真と記事を9ページにわたって掲載して、「キャパの後継者」として一躍名前を知られるようになった岡村明彦だが、彼の活動を「戦争写真家」という枠組に封じ込めて論じるのは難しい。ベストセラーとなった『南ヴェトナム戦争従軍記』(岩波新書、1965年)を読めば、彼が優れたルポルタージュの書き手であることはすぐにわかる。その行動範囲も、アメリカ、アイルランドからナイジェリア(ビアフラ)、エチオピアにまで及び、晩年は生命倫理(バイオエシックス)や終末医療(ホスピス)の問題についても意欲的に発言していた。岡村を称するには、まさに「カメラを持った思想家」という言葉がふさわしいのではないだろうか。
今回の展覧会には、ベトナム、ラオスをはじめとして、アイルランド、ビアフラなどで撮影された未発表作を含む、180点以上の写真が展示された。公立美術館における、はじめての大規模な回顧展ということになる。会場に並んだ写真を見ながら、岡村は写真家としても一筋縄ではいかないと感じた。彼が常用していたのは35ミリのレンズであり、ほとんどの写真はそのやや広角気味のアングルで撮影されている。報道写真家にありがちな、被写体をクローズアップで狙って、読者の感情をかき立てるような写真はほとんどなく、冷静な距離を保ちつつ、そこにある現実をきわめて客観的に写しとっているのだ。岡村自身は常々「証拠力のある写真」と語っていたようだが、このような撮り方は情緒的な反応ではなく、高度な認識力と読み取りの力を読者に要求するものだ。そのことが、彼の没後30年近くたって、あらためて大きな問題をわれわれに投げかけているように感じる。フォトジャーナリズムの現場における写真家の姿勢について、再考を促す写真群といえるだろう。
2014/07/23(水)(飯沢耕太郎)