artscapeレビュー
細倉真弓「クリスタル ラブ スターライト」
2014年08月15日号
会期:2014/07/04~2014/08/10
G/P GALLERY[東京都]
「クリスタル ラブ スターライト」というのは、細倉真弓がたまたま見つけた新聞記事に掲載されていた群馬県の飲食店の名前。1992年にこの店を舞台にして「5000万円荒稼ぎ」をしたという売春事件が起こったのだという。細倉はこのいかにも身も蓋もない、薄っぺらな響きの店の名前になぜか心惹かれるものを感じて、今回のシリーズを構想した。「Wing」、「セクシークラブ大奥」、「ド・キホーテ」といった、いかにも地方都市の歓楽街にありそうな店のイルミネーションを撮影した写真を挟み込んで、やはりネオンサインっぽい原色の色味に変換された男女のヌード写真が並ぶ。会場には「クリスタル ラブ スターライト」というネオンサインを製作した実物も展示してあった。あざといといえばあざとい構成だが、そこには日本の社会的風景にどうしても拭い去りがたく染みついた“貧しさ”、“鬱陶しさ”が透けて見える。
細倉がこのような社会批評的な文脈を作品に取り入れるようになったのは、とてもいいことだと思う。だが、この試みを単発で終わらせるのはもったいない。「クリスタル ラブ スターライト」の事件はもう20年前のことなので、インパクトがやや薄まっている。最近の同種の事件(それが何かはよくわからないが)にもスポットを当てて、日本社会の底辺の構造をあぶり出す連作に繋げていけるのではないだろうか。もしそれができるなら、大きな可能性を秘めた表現の鉱脈が見えてきそうだ。
なお東京・恵比寿のPOSTでは、同時期に細倉の新作の「Transparency is the new mystery」が展示されていた(7月11日~27日))。こちらは前作「KAZAN」の延長上にある、モノクロームのヌードと鉱物の結晶をテーマとする連作である。
2014/07/13(日)(飯沢耕太郎)