artscapeレビュー
北野謙「いま、ここ、彼方」
2014年08月15日号
会期:2014/07/05~2014/08/10
MEM[東京都]
北野謙は2013年に文化庁の海外研修でロサンゼルスに滞在した。今回、東京・恵比寿のMEMで発表されたのはその時に制作された2作品「太陽のシリーズ」(day light)と「月のシリーズ」(watching the moon)である。「太陽のシリーズ」はカメラを三脚に据え、長時間露光で日の出から日没まで、ほぼ一日の軌跡を追う。「月のシリーズ」の方は、それとは対照的に天体の動きにあわせて月を追尾しながら、1~数分間のスローシャッターを切っている。
このような天体の動きを定着したシリーズとしてすぐに思い浮かぶのは、山崎博の「HELIOGRAPHY」(写真集の刊行は1983年)である。ちょうど、写真展のオープニングにあわせて、北野と山崎のトークショーが開催されたと聞いて「なるほど」と思った。だが、海と太陽というシンプルな舞台装置で、太陽が描き出す光の帯をむしろ抽象的に写しとった「HERIOGRAPHY」と比較すると、今回の北野の作品の印象はかなり違う。太陽や月の手前には、カリフォルニアのMcDonaldやMobilの看板、アメリカ国旗、原子力発電所、アメリカ軍の1週間ごとの戦死者を十字架の数であらわすモニュメントなどがブレた画像で写り込んでいるのだ。つまり北野の関心は太陽や月のような普遍的、神話的な表象と、爛熟した資本主義社会に特有の景観を対比する所にあり、山崎の「写真とは何か?」というコンセプチュアルな問いかけに基づくアプローチとはかなり違ったものになっている。
とはいえ、30年以上の時を隔てて二つの作品が呼応しているように見えるのが面白い。アメリカ滞在は、北野自身にとっても、写真家としての経歴に新たな1ページを開く契機となったのではないだろうか。
2014/07/13(日)(飯沢耕太郎)