artscapeレビュー

ラッセル・スコット・ピーグラー「FROM INDIA」

2015年03月15日号

会期:2015/01/28~2015/02/10

銀座ニコンサロン[東京都]

ラッセル・スコット・ピーグラーは1980年、アメリカ・サウスカロライナ州の生まれ。2003年に来日して、上智大学で日本語を学びつつ、写真作品を発表しはじめた。今回の展示はインド(デリー、ムンバイ、コルカタ、バナラシ、ダージリン)への旅の間に撮影したスナップショット群で、会場の壁を大小の写真で埋め尽くしていた。
人と犬と牛と山羊とが共存するインド各地の路上をさまよいつつ、 広角気味のレンズで被写体に肉薄していく写真のスタイルは、それほど目新しいものではない。いわゆる「インド写真」の典型にぴったりとおさまってしまう。だが、写真の周辺に絵の具で枠を描き、さらにその外側を手書きの文字でびっしりと埋め尽くす見せ方には可能性を感じた。「熱気にむせ返りながら、ガンジス川沿いを歩く。そのにおいはすさまじい。そして命のにおいがしている(原文は英語)」といったテキストは、インドの旅の途中で書かれた手記のようだ。その呪術的な雰囲気を醸し出すカリグラフィと、カオス的な状況のディテールを的確に描写していく写真とが、とてもうまく絡み合っていて、「忘れかけていた人間の根源を感じようとする欲望や、真の意味、本当の目的を見つけることへの渇望」を表現したいという作者の意図がいきいきと伝わってきた。
この手法は、インドだけでなく、他の国々の旅の写真にも適用できるのではないだろうか。日本の写真と日本語のテキストという組み合わせも、ぜひ見てみたいと思った。

2015/02/10(火)(飯沢耕太郎)

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