artscapeレビュー
中藤毅彦「Night Crawler 1995 2010」
2011年02月15日号
会期:2011/01/07~2011/01/30
ZEN FOTO GALLERY[東京都]
中藤毅彦の実質的なデビュー写真展といえる「Night Crawler──虚構の都市への彷徨」は、1995年に新宿・コニカプラザで開催された。僕はその展示を見ている。中藤が東京ビジュアルアーツで森山大道に師事していたのは知っていたから、やはりその影響が強すぎるのではないかと思った記憶がある。だが、彼が他のエピゴーネンたちと違っていたのは、森山の都市のスナップショットの仕事を単純に模倣するのではなく、さらにそれを過激に、より大げさとさえいえるような身振りで展開していこうという明確な意欲を持っていたことだろう。その後「虚構の都市」東京を這い回る作業は一時中断され、彼は東欧諸国、ロシア、キューバ、上海などに撮影の範囲を拡大していった。そして2010年になってひさしぶりに東京を撮影し直した写真群に、旧作を併せて展示したのが今回の「Night Crawler 1995 2010」展である。
コントラストの強いモノクロームの写真は、ほとんど変わりがないように見える。だがよく見ると、1995年と2010年の作品では、明らかに画面の成り立ちが違ってきているのがわかる。旧作は中心となる被写体を鷲掴みにしてくるような力業でシンプルな画面を構築していた。だが新作になると、都市を階層(レイヤー)として捉えるような視点があらわれてくる。画面はより多層化し、都市の波動に同調して網目状に伸び広がっていく視線の動きを感じとることができる。その変化は、端的に、使用機材がアナログカメラからデジタルカメラへと移行したことによるものといえそうだ。一眼レフカメラでハンターのように狙いを定める身構え方が、デジカメのモニターをやや目から離して覗き込む姿勢へと変化した。そのことによって、明らかに画面に弛みや震えが生じてきている。しかし、それをあまりネガティブに考えることはないのではないか。2010年版の「Night Crawler」の方が、東京という都市が発するノイズの総体をより包括的に捉えることができるようになっていると思えるからだ。これから先、もしこのシリーズがさらに撮り続けられるとしたら、どんなふうに変わっていくのかが楽しみでもある。
2011/01/07(金)(飯沢耕太郎)