artscapeレビュー
2012年06月15日号のレビュー/プレビュー
中埜幹夫 展
会期:2012/05/28~2012/06/02
Oギャラリーeyes[大阪府]
赤紫がかった茶色の色面の上に白いインクで描かれた泡か空気の微粒子のようなイメージの無数の細かい文様と、画面の上から下に流れる金色の帯。ギャラリーの三つの壁面に展示されていた一連の抽象絵画は、離れて見たときにはじめて、森の風景のイメージがあぶり出しのように浮かんできた。空間的な奥行きと広がりを感じるのと同時に、それぞれの画面の一部を覆うような無数の白い文様が時間軸となって、物語性を帯びたパノラマに見えてくるから不思議。全体に静謐な趣きがあるのだが、見る距離によって静止性と運動性の両方を感じることができる魅力的な作品だった。
2012/05/31(木)(酒井千穂)
國府理 展「水中エンジン」
会期:2012/05/22~2012/06/03
アートスペース虹[京都府]
國府理の新作展。ギャラリーに入ると、鉄製の台の上に1立方メートルの立方体の水槽が置かれていて、自動車のエンジンがその水中で稼働していた。排出ガスは接続されたダクトホースから屋外に排出される仕組みになっているとのことだったが、それでも会場は臭気に包まれていて空気が悪い。水槽の中は波だち、耳を近づけるとエンジンの稼動音とは別の唸るような振動音も聞こえてくるから少し不気味だ。この作品はほかでもなく、原発事故に着想を得たものだという。原発、車、家電や身のまわりの製品、それにわれわれの身体まで。なににおいてもだが、機能のプロセスやその構造の問題は、それが“正常”に機能しているときにはいつも意識から消えてしまう。周囲にガスを排出しながら動き続けるエンジンの様子は、科学技術的なシステムというだけでなく、そのような機能と人間(の目的)という存在の脈絡についても思いを巡らせた。
2012/05/31(木)(酒井千穂)
マニフェスタ9「The deep of the Modern」
会期:2012/06/02~2012/09/30
Waterschei mine[ベルギー ゲンク]
ゲンクの旧工場に向かい、毎回開催される都市を変えるマニフェスタ9のプレス・プレレビューに出席した。「deep of the modern」と題して、近代化とからむ炭坑とアートをテーマに掲げる。明快なキュレーションによって、作品をフロアごとに分類し、目黒区美術館の「文化資源としての炭坑」展を超拡大したような内容だった。会場は分散させずひとつに集約し、それが炭坑の関連工場であることが展覧会の説得力を増している。
2012/05/31(木)(五十嵐太郎)
Mind the System, Find the Gap
会期:2012/06/02~2012/09/30
Z33[ベルギー ハッセルト]
ベルギーのハッセルトでは、Z33というアート・スペースの「Mind the System, Find the Gap」展のプレビュー・パーティへ。こちらはスキマをテーマに、美術や建築の作品をいろいろと紹介していた。建物の見学は日が暮れると基本的に終わるが、アートの鑑賞は夜になっても続く。世界を飛びまわり、各地のオープニングを訪れるキュレータの仕事は相当にタフだ。
2012/05/31(木)(五十嵐太郎)
カタログ&ブックス│2012年6月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
芸術回帰論──イメージは世界をつなぐ
3.11を機に浮かび上がった現代文明の問題の根底には、理系と文系のあいだにおける決定的な文化の乖離、すなわちコミュニケーションの不可能性が存在していた。自然科学の暴走を容認してきた社会の在り方を変革するため、いま、身体感覚に基づいた「共通言語」を取り戻し、新たに創造していくための場をここに開く。分裂がすすむ危機の時代に想起すべきは、科学的思考と芸術をつなぐイメージの力である。[平凡社サイトより]
建築と言葉──日常を設計するまなざし
詩人小池昌代氏と建築家塚本由晴氏が都市から家屋、風景ごとに必要な言葉を選び与えていく対話集。「建築には比喩が必要である」建築と言葉の関係を中心に詩や小説、俳句といった分野に至まで暮らしの源泉と未来を探っている。
復興の風景像──ランドスケープの再生を通じた復興支援のためのコンセプトブック
被災地の産業や生活の再生、直面する人口減少や高齢化社会問題、これらをランドスケープの再生から考えることは、震災からの復興のみならず、将来の地域や都市デザインを考えるための最先端ツールとなる。第一線で活躍する気鋭のランドスケープアーキテクトたちが提案するデザインコンセプト集。[本書帯より]
subject'11──浸透の手つき
多摩美術大学大学院美術研究科芸術学専攻の研究誌として、2011年度の活動がまとめられている。トークイベント「オルタナティブの現在──キッチンからアートNPOまで──」の記録や、アートプロジェクト「AOBA+ART2011」の実践報告、修士論文の研究報告などが収録されている。
TUAD AS MUSEUM── Annual Report 2011
東北芸術工科大学美術館大学構想年報。『美術館大学センター』では、学内の研究機関と共同で〈東北〉の風土に根ざした展覧会や、他地域とのネットワーク構築のためのシンポジウムを定期的に企画・開催している。また、〈芸術によるあらたな地域文化の掘り起こしとその継承〉をテーマに、東日本大震災の被災地や、空洞化しつつある中心市街地や中山間地域での、地域と有機的に連動しながら推進している。
2012/06/15(金)(artscape編集部)