artscapeレビュー

2013年09月15日号のレビュー/プレビュー

ヴィト・アコンチ講演会

会期:2013/08/03

市原湖畔美術館[千葉県]

屋上広場にインスタレーションを設置しているアコンチの記念講演会。アコンチといえばかつてギャラリーでオナニーパフォーマンスをしたり、最近では福島原発の「指差し作業員」の元ネタとしてその名が出るなど、過激なアーティストとして知られるが、講演ではいきなり「自分のやってることはアートだと思ってない。建築だと思ってる」といってのけ、スライドを使って彼のいう「建築作品」を紹介していった。たしかに風力発電で地面を円形に回転させたり、メビウスの輪を応用したベンチを開発したり、トリッキーなアイディアが多いけど、けっこうしっかり設計して実現させている。一方で、ニューヨークのWTCの跡地に「どうせ破壊されるなら、あらかじめ破壊されたビルを建てる」というコンセプトのもと、内も外もない穴だらけの超高層建築を提案して落とされたりもしている。老いてなお過激さを失わないばかりか、ますます増長させてる点は見倣いたい。

2013/08/03(土)(村田真)

殿村任香「ゼィコードゥミーユカリ/母恋ハハ・ラブ」

Zen Foto Gallery[東京都]

会期:2013/7/31~9/7(8/11~16休)

殿村任香(とのむらひでか)のデビュー作『母恋ハハ・ラブ』(赤々舎、2008)は「女としての母、あるいは母としての女」の像を鮮烈に描き出して、見る者に重い衝撃を与える写真集だった。今回のZen Foto Galleryでのひさびさの個展には、その続編にあたる「ゼィコードゥミーユカリ」が展示されていた。闇の中にうごめく被写体を、手探りし、抱き寄せ、肌を擦りつけるように撮影していく撮影の仕方に変わりはない。だがその視線の強度と生々しさは、さらに強まっているように感じられる。
2008~2009年にかけて集中して撮影されたこのシリーズは、殿村の「歌舞伎町時代」の産物だという。新宿・歌舞伎町のお店では、彼女は「ユカリ」という源氏名を使っていて、それが今回のタイトルの由来になっている。前作のようなストーリー性はむしろ薄められており、至近距離から赤っぽい色調で撮影された男女の姿は、一瞬浮かび上がっては、再び濃い闇の奥に沈んでいく。その点滅を目で追ううちに、「もののあはれ」としか言いようのない感情が、押さえきれずに湧き上がって来るのを感じた。日本人の心性に強く根付いている無常観が、濃密な性の営みの描写を通して浮かび上がってくるのだ。
ふと、こういう作品がヨーロッパやアメリカでどんな評価を受けるのかを確かめたくなった。どこかで殿村の本格的な展覧会を開催できないだろうか。なお展示に合わせて、Zen Foto Galleryから同名の写真集も刊行されている。

2013/08/03(土)(飯沢耕太郎)

天若湖アートプロジェクト2013「あかりがつなぐ記憶」

会期:2013/08/03~2013/08/04

京都府南丹市日吉町日吉ダム湖面[京都府]

京都府南丹市にある日吉ダムの建設に際して水没した5集落(宮村、世木林、楽河、沢田、上世木)、122戸の家々の位置を計測し、その一戸ずつのあかりをダム湖面に浮かべたLEDライトによって再現するプロジェクト「天若湖アートプロジェクト『あかりがつなぐ記憶』」。昨年初めて見に行って感動し、今年も無料バスツアーに参加した。今回はあいにく天気が悪く、雨が時折激しく降るなかで鑑賞することになったのが残念だったが、当時の集落の様子や周辺地域の歴史についての説明をスタッフから聞きながら眺める湖面の小さな灯りの数々、霧の暗闇に広がる幻想的なその光景はやはり圧倒的な美しさで、そこにあった人々の暮らしや時間にも思いが巡った。複数の大学の学生たちや周辺地域の人々、ダム管理施設の関係者など、立場の異なる多くの人達の協力によって毎回開催されるこのプロジェクト。今年は9回目にして若い造形作家の作品を紹介するという新たな展示プログラムも始動していた。「スプリングひよし」の展示室にて開催されていた河村啓生展。こちらには河村の合成漆とグルーによる作品が数点展示されていた。明と闇、生と死、破壊と再生などの言葉やそれらの境界について想像が掻き立てられていくのが「あかりがつなぐ記憶」のイメージにも合っている。もっとゆっくりと鑑賞したかったが、ここでは少し急ぎ足になってしまい残念。しかし10回目の開催となる来年も引き続き河村が参加、作品展示を行なうと聞いたので楽しみにしている。

2013/08/04(日)(酒井千穂)

米田知子「暗なきところで逢えれば」

会期:2013/07/20~2013/09/23

東京都写真美術館 2階展示室[東京都]

兵庫県出身で現在はロンドンとヘルシンキに在住している米田知子は、とても志の高い写真家だ。「歴史」「可視のものと不可視のもの」「写真というメディア」といった大きなテーマを、大胆に、だが決して気負うことなく着実に形にしていく。今回東京都写真美術館で展示された「暗なきところで逢えれば」は、国内では最初の本格的な回顧展である。代表作であり第二次世界体験の記憶が埋め込まれた場所を、そのディテールにこだわって撮影した「Scene」をはじめとして、「Japanese House」「見えるものと見えないもののあいだ」「Kimusa」「パラレル・ライフ:ゾルゲを中心とする国際諜報団密会場所」「サハリン島」「積雲」「氷晶」「暗なきところで逢えれば」(3面マルチスクリーンの映像作品)といった作品が、少し盛りだくさんな気がするくらいに並んでいた。
注目すべきは、2013年3月11日の東日本大震災を契機に撮影されたという「積雲」のシリーズだろう。「終戦記念日・靖国神社」「平和記念日・広島」「飯館村・福島」「新年一般参賀・東京」といった象徴性の強い日付と場所を選択し、いつものように細やかな配慮で写しとった写真群には、彼女の強い意志を感じ取ることができた。「日本が明治維新以降、列強諸国に比肩しようと民主化、近代化を進め、また世界を舞台に数々の戦争に賛同していった歴史と現在──ここ東京に滞在しながら、それが何を意味してきたかを、自分なりに考えている。[中略]われわれはどのような側面から客観視しても、欲に駆り立てられて存在しているのか。すべては不可視化されている」。問いかけは重いが、写真そのものは明晰で迷いがない。米田のような外国での生活が長い作家が、日本人としてのアイデンティテイを問い直すことは、それだけでも貴重な試みと言える。
なお同時期に、東京・清澄のShugo Artsでは、部屋とその内部をテーマにした「熱」「壁紙」などのシリーズを含む「Rooms」展(7月20日~9月7日)が開催された。

2013/08/04(日)(飯沢耕太郎)

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あいちトリエンナーレ2013 揺れる大地─われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活

会期:2013/08/10~2013/10/27

愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町会場、納屋橋会場、東岡崎駅会場、康生会場、松本会場[愛知県]

あいちトリエンナーレの設営が進む、名古屋へ。東北大学の五十嵐研チームも、ゴールデンウィークに続き、8名が長者町、愛知芸術文化センター、岡崎のシビコなどの現場に分かれて、設営のサポートに入る。遊撃部隊として人手が足りないところに関わり、オープニングまで、ソ・ミンジョン、マーロン・グリフィス、ケーシー・ウォン、藤森照信、菅沼朋香、スタジオ・ヴェロシティらの作品制作を手伝う。長者町では、アートラボあいちのすぐ近くのビルの一階を、木を用いてリノベーションした、NAKAYOSHIというユニットによるビジター・センター・アンド・スタンド・カフェが登場する。長者町の模型も置き、夜遅くまで営業。あいちトリエンナーレ期間中の限定店舗だが、アーティストやキュレーターらが何度もお世話になったアートカフェである。

2013/08/04(日)(五十嵐太郎)

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