artscapeレビュー
2013年09月15日号のレビュー/プレビュー
アメリカン・ポップ・アート展
会期:2013/08/07~2013/10/21
国立新美術館[東京都]
ポップアートの全貌を紹介する回顧展、のつもりで行ったらガッカリする。たしかにラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズからウォーホル、リキテンスタイン、メル・ラモスまで、代表的なポップアーティストの作品を約200点もよく集めたもんだと感心するが、中身は版画やドローイングが大半を占め、油彩やコンバイン・ペインティングなどの大作は全体の5分の1程度にすぎない。それもそのはず、これはジョン・アンド・キミコ・パワーズ夫妻のコレクションから選んだもの。やっぱり個人コレクションじゃ限界がある。まあポップアートだから複製でも許せるというか、むしろ複製のほうがポップらしいという見方もあるが、でもやっぱり「ホンモノ」にはかなわない。とくに抽象表現主義の名残をとどめるラウシェンバーグとジョーンズの油ぎったペインティングを見たかった。でも後半に登場するウォーホルは圧巻。8点におよぶキミコ夫人のポートレートをはじめ、マリリン、キャンベル・スープ缶、毛沢東、電気椅子、ドル記号などもあって充実している。版画をまんべんなく100点集めるなら、ウォーホルに絞って大作1点を買ったほうがすっきりするのに。余計なお世話だが。
2013/08/06(火)(村田真)
井上隆雄 牧野和馬 写真展「見えない何か」
会期:2013/08/08~2013/08/31
MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w[京都府]
「MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w」が京都市南区から下京区に場所を移し、新たにオープンした。その幕開けとなる第1回目を飾ったベテランの写真家と30代の写真家による二人展。展示されていたのは、通りがかって目にしたごく身近な風景の一場面や、何気ない自然の景色といった印象のシンプルな写真ばかりなのだが、そこで真っすぐに被写体と向き合うそれぞれの作家の眼差しや時間が感じられる作品一つひとつの表現がどれも清々しく、「見えない何か」という展覧会タイトルの情趣にも思いが巡った。新しいギャラリーには三つの展示空間がある。今後こちらで開催される展覧会も注目したい。
2013/08/08(木)(酒井千穂)
フランシス真悟「Across the Line : a voyage into the void」
会期:2013/08/08~2013/08/24
ギャルリーパリ[神奈川県]
青を基調としたモノクロームに近い色面絵画から、最近は水平方向に広がりのある画面に移りつつある。とくに大作《Into Space》をはじめとする横長の新作は、画面中央に白くて太い水平方向のラインを入れ、その上下にさまざまな色彩をにじませたもの。バーネット・ニューマンの「ジップ」を横倒しにした感じだが、滴り落ちる絵具をそのまま残しているので天地ができ、奥行きも感じられる。そのため、大気圏の層に見えたり、傷口を隠すテープに見えたりもする。おそらく垂直線だと緊張感が生まれて瞑想的になるのに対し、水平線のほうが人の目になじみやすく、具体的な連想を呼び起こしやすいのかもしれない。考えてみれば彼の青い色面絵画も水平線が入り、文字どおり「水平線」を表象していたともいえる。
2013/08/08(木)(村田真)
やなぎみわ「案内嬢プロジェクト」
会期:2013/08/09~2013/08/11
愛知芸術文化センター[愛知県]
やなぎみわの「案内嬢プロジェクト」のゲネプロを観劇した。あいちトリエンナーレ2013の紹介から始まり、宮本佳明による福島第一さかえ原発のプロジェクトやパフォーミングアーツがテーマとするベケットなど、さまざまなコンテンツと共鳴し合う。そして原爆投下後、実際に対米放送で流されたラジオ・ドラマを行ない、日本の8月にしかできないことを組み込みつつ、時空を超えて、やなぎの演劇「ゼロアワー」の世界と接続する。最後は吹抜けのエレベータから退場し、愛知芸文センターの空間を見事に活用した内容だった。
2013/08/08(木)(五十嵐太郎)
ART ARCH HIROSHIMA 2013
会期:2013/07/20~2013/10/14
広島市現代美術館、ひろしま美術館、広島県立美術館の3館で、現在、「平和」と「希望」というメッセージを共通のテーマにした展覧会が同時開催されている。いずれの館も、広島とゆかりの深いイサム・ノグチの作品をテーマの鍵として紹介しながら、三館三様の作品展示を行なっている。場所(サイト)の記憶に触発された表現に注目した広島市現代美術館の「サイト──場所の記憶、場所の力」、ノグチに影響を与えたであろう彫刻家、画家、デザイナーなど、交友した人々に関わる作品にスポットをあてたひろしま美術館の「イサム・ノグチ──その創造の源流」、“再生”“対話”“平和”をキーコンセプトに時代やジャンルを超えた幅広い表現を3章構成で紹介する広島県立美術館の「ピース・ミーツ・アート!」。一日かけて3館を巡ったのだが、どの館の展示も見応えのある内容とボリュームで考えさせられるものも多く大きな収穫を得た気分になった。作品のなかでは特に広島市現代美術館に展示されていたマイケル・ラコウィッツの作品《見えない敵などいるはずがない(再発見、行方不明、盗難シリーズ)》に揺さぶられた。略奪や放火によって失われてしまったイラク国立美術館の美術工芸品の数々を、食料品のパッケージや包み紙など、人々の生活で消費され捨てられてゆく紙類を用いて張り子のレプリカにしたその作品群には、一つひとつに詳細な解説が添えられていた。作品への理解と関心も深まる丁寧な展示でなにより強く印象に残る。「アートアーチひろしま」各展は10月14日まで開催されている。「ひろしま めいぷる~ぷ」という市内循環バスが運行しており、広島駅前からも乗ることができる。上手に利用すれば、3館を効率的に巡ることができるのでおすすめだ。
2013/08/09(金)(酒井千穂)