artscapeレビュー
2016年10月15日号のレビュー/プレビュー
それぞれの時「大阪」~森山大道・入江泰吉・百々俊二展~
会期:2016/09/03~2016/10/30
入江泰吉記念奈良市写真美術館[奈良県]
奈良市写真美術館には「入江泰吉記念」という冠がついているので、各展覧会には入江泰吉作品の展示が必須になる。今回の「それぞれの時「大阪」」展でも、森山大道と百々俊二の「大阪」の写真と入江の写真をどう組み合わせるかに、相当苦労したのではないかと思う。
入江は戦後、生まれ故郷の奈良で暮らし、「大和路」を中心に写真を撮影・発表してきたが、戦前は大阪で「光藝社」という看板を掲げて活動していた。ところが、1945年3月の大空襲で自宅と店が全焼し、撮りためたネガや写真機材のほとんどが灰燼に帰してしまった。そのとき、唯一焼け残ったのが、今回展示された「文楽」のネガとコンタクト・プリントである。名人が一斉に輩出した、昭和10年代の人形遣い、囃子方らのポートレートと、のちに空襲で焼失する文楽人形をクローズアップで撮影した写真は、とても面白い。コンタクト・プリントには「おおいやき」、「やや明るく」などの書き込みがあり、写真家の息遣いが生々しく伝わってくる。戦後の風景や仏像の写真とはかなり趣が違う、若々しい雰囲気の写真群である。
百々俊二と森山大道の「大阪」もそれぞれ面白かった。百々は九州産業大学の卒業制作だった「新世界劇場」(1969~71)を皮切りに、「大阪・天王寺」(1975~78)、「新世界むかしも今も」(1979~86)、「大阪」(2005~10)と、40年以上にわたって撮影し続けた150点以上の写真を展示していた。一方、大阪・池田市出身の森山大道は、1990年代に撮影された路上スナップを中心に、64点をニュープリントで出品した。彼らの写真を見ていると、街と人とのあり方が、東京と大阪では違っていることに気がつく。路上の人々が、街から遊離しているように見える東京と比較して、大阪では街と分かちがたく一体化した人々の姿を見ることができる。百々も森山も、群衆に紛れ込み、時に彼らを見返しつつシャッターを切るなかで、次第にエキサイトしていく様子が写真から伝わってくる。大阪という空間そのものが、写真家たちにとって魅力的なカオスとなっているのだ。この街から、路上スナップの名作が次々に生まれてくるのも当然というべきだろう。
2016/09/30(金)(飯沢耕太郎)
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