artscapeレビュー
2009年07月15日号のレビュー/プレビュー
安藤忠雄建築展2009:対決。水の都 大阪vsベニス──水がつなぐ建築と街・全プロジェクト
会期:2009/05/23~2009/07/12
サントリーミュージアム[天保山][大阪府]
会場自体が安藤忠雄自身の作品。展示の前半は水都復活を目指す大阪の中之島、JR大阪駅北ヤードの再開発プロジェクト、ヴェニスで進行中の最新プロジェクトの様子を紹介。後半は、川や海などの水辺、「水」をテーマにしたこれまでの安藤忠雄建築の全プロジェクトを模型や映像などで紹介している。建築の展覧会というと、来場者が少ないイメージがあったのだが、会場を訪れてみると、若いカップルや子どもを連れた家族の姿も多く、とても賑わっていたのでちょっと驚いた。メディアの影響も大きいだろうが、安藤忠雄という建築家の人気ぶりを思い知った気分。大阪の大川沿いの桜の通り抜けを拡張する「桜の会・平成の通り抜けプロジェクト」や、中之島の川沿いに建つビル壁面にツタを這わせ、川沿いの風景を緑に変えていくという今年から始まった壁面緑化プロジェクトは実際に興味深く今後も注目したい提案だ。全体的な割合で見ると関西での仕事はとても少ないようだが、会期中、氏によるギャラリートーク(およびサイン会)が合計20回(!)も開催されるということからもわるが、地元である大阪への愛とその情熱をビシバシと感じる展覧会だった。
ところで、ギャラリーからの海の眺めは素晴らしい。安藤作品を実際に訪れ、海辺から大阪の街について考えるという体験もまた、本展においてもっとも重要なポイントであったと思う。展覧会はまもなく終了するが、それは今後も体験可能だ。7月25日からは「スタジオジブリ・レイアウト展」開催。
スタジオジブリ・レイアウト展:http://www.suntory.co.jp/culture/smt/gallery/next.html
2009/06/28(日)(酒井千穂)
井上章一『伊勢神宮 魅惑の日本建築』
発行所:講談社
発行日:2009年5月14日
しばらく文化史的な仕事が続いていたが、久しぶりに井上章一による本格的な日本建築論が登場した。かつて桂離宮や法隆寺でも試みたように、本書でも文献にもとづく実証主義により、伊勢神宮をめぐる言説の変遷や分析を行ない、精神史を追跡していく。
興味深いのは、神秘的ではない、合理主義的な解釈がすでに江戸時代から始まっていたという指摘である。その近代精神は、同時に伊勢神宮からさかのぼる始源の小屋という新しい幻想をもたらすが、18世紀のヨーロッパの建築界でもウィトルウィウス批判を通じて同じ現象が起きていた。また井上は、1900年に伊東忠太が初めて骨格をつくったとされる神社建築史も、江戸時代に用意された知の枠組にのっていたとみなす。
一方で伊勢神宮を芸術として評価する近代的なまなざしは、明治を迎え、西洋との交流から獲得したという。他にも、伊勢神宮は日本特有か、アジアの影響があるのか、あるいは対照的な考えをもつ東大と京大の建築史家など、興味深いトピックが続く。ラストは、最近の考古学批判にも及ぶ。彼の個性でもある意地悪な語り口は気になるが、建築界における最高級の知性を感じる。
詳細:http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2154927
2009/06/30(火)(五十嵐太郎)
隈研吾『自然な建築』
発行所:岩波書店
発行日:2008年11月20日
20世紀の建築は、コンクリートという均一な技術によって世界を覆いつくした。それは場所に関係なく、自由な造形を可能にする魔法の材料である。しかし、こうした普遍性は、世界の同一化を推進し、建築の多様性を失う。またコンクリートは、どう見えるかという外観を重視し、モノの存在のあり方を軽視する。が、人間にとっての豊かさを回復するには、生産や構法のレベルから「自然な建築」を再考すべきだ。本書は、隈の手がけた作品を通し、地域の自然素材をいかした、現代的なデザインを提示している。
詳細:http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn0811/sin_k443.html
2009/06/30(火)(五十嵐太郎)
難波和彦『建築の四層構造』
発行所:INAX出版
発行日:2009年3月1日
サステイナブル・デザインをめぐる論考。ヴィジュアルなテクノロジー志向ではない。全編にロジカルな思考の手続きを貫く。とくに物理性、エネルギー性、機能性、記号性という建築の四層構造論は、著者にとっての重要な分析装置であると同時に、サステナブル・デザインを導くための理論的枠組になっている。最終章は、アルミエコハウスや箱の家シリーズなど、実践的な事例を紹介する。未来への技術的な提案に富む、実建築論。
詳細:http://www.inax.co.jp/publish/book/detail/d_154.html
2009/06/30(火)(五十嵐太郎)
『震災のためにデザインは何が可能か』
発行所:NTT出版
発行日:2009年5月29日
震災は日本にとっていつも重要なテーマである。一秒でも早く予知するためのシステムづくりにも大量の研究費が投じられる。だが、本書はカタストロフィーとしての地震に悲壮感をもって立ち向かうものではない。デザインという知的な営為を通じて、いかに震災がもたらす具体的な場面とつきあうのかを考えさせる。デザインとは視覚的なカッコよさを追求するだけではない。むしろ、生活と全般的に関わることを改めて教えてくれるだろう。ランドスケープ・デザイナーの山崎亮が関わるStudio-Lと、Hakuhodo+designがワークショップを行ない、その成果をもとに本書が執筆された。
詳細:http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100001978
2009/06/30(火)(五十嵐太郎)