artscapeレビュー

2009年07月15日号のレビュー/プレビュー

韓国若手作家による「4つの方法」

会期:2009/06/08~2009/07/02

ガーディアン・ガーデン[東京都]

ガーディアン・ガーデンで1994年から開催されている「アジアンフォトグラフィー」シリーズの第6弾。今回は韓国の写真評論家、キム・スンコンのキュレーションで、韓国の「若手作家」4人の作品を紹介している。
出品しているのはユー・ジェーハク、キム・オクソン、パク・スンフン、クォン・ジョンジュン。大地に繁茂する植物群を大判カメラで静かに凝視するシリーズ(ユー)、国際結婚したカップルを自室で撮影したポートレート(キム)、16ミリフィルムの画像を織り込むようにして構成した都市の光景(パク)、林檎をクローズアップした写真を箱形に再構成した立体作品(クォン)と、制作のスタイルはバラバラで、まったく統一感がない。韓国でも、90年代のように、ある一つのスタイルが一世を風靡して強い影響力を持つような時期は過ぎ去ってしまったのだろう。
以前は韓国の現代写真というと、荒々しいエネルギーを全面に押し出した力強い作品が多かった。それが、今回の作品を見ると、洗練され、細やかな配慮が感じられるものになっている。そのやや弱々しく、おとなしい傾向は日本の美術系大学の出身者にも共通しているものだが、本当にそれでいいのかとちょっと心配になってくる。韓国写真の「日本化」は、あまり望ましいこととはいえないだろう。それともこの過渡期を経て、何か新たなうごめきが湧き起こってくるのだろうか。

2009/06/12(金)(飯沢耕太郎)

写真◎柳沢信

会期:2009/06/02~2009/06/28

JCIIフォトサロン[東京都]

柳沢信という名前を、若い世代は知らないかもしれない。1936年、東京・向島生まれ。東京写真短期大学卒業後、58年に「題名のない青春」という洒落たタイトルのシリーズでデビューするが、結核で2年間の療養生活を送る。病がようやく癒え、60年代半ばから『カメラ毎日』を中心に「二つの町の対話」(1966)、「新日本紀行」シリーズ(1968)、「片隅の光景」(1972)などを発表。タイトルが示すように、旅の途上で目に入ってきたさりげない光景を、飄々と、静かに哀感を込めて写しとったシリーズで注目を集めた。同時代の「コンポラ写真」との類縁性を指摘されることもあるが、基本的には孤立した水脈を全うした写真家といえるだろう。2008年、喉頭癌、食道癌による長い闘病生活を経て死去。写真集として『都市の軌跡』(朝日ソノラマ、1979)、『写真◎柳沢信』(書肆山田、1990)が残された。
その彼の1960~70年代の代表的なシリーズを集成したのが今回の回顧展である。高度経済成長下の騒然とした時代だったはずなのに、過度な感情移入を潔癖に拒否して、淡々と撮影されたスナップショットは、猥雑な部分が削ぎ落とされ、不思議に清澄な印象を与える。人柄があらわれているとしかいいようがない。スナップショットを通じて「写真」の広がりと深み(渋みや苦味も含めて)を探求しようとしていた求道者の面影が、しっかりと伝わってくる。カタログを兼ねた小冊子もJCIIフォトサロンから刊行されている。若い人たちにぜひ見てほしい写真群だ。

2009/06/12(金)(飯沢耕太郎)

フランス絵画の19世紀

会期:2009/06/12~2009/08/31

横浜美術館[神奈川県]

金氏撤平の次は19世紀フランス絵画かよ。ジェットコースター並の落差が味わえるぞ。しかも大半がアカデミックな古典主義だから見逃せない。ジロデ、グロ、ゲラン、ヴェルネ、ドラロッシュ、コニエ、フランドラン、カバネル、ボードリー、ジェローム、ブグロー、コラン、ローランス……。いまでは美術史にほとんど登場しない、するとしても印象派や明治期の日本人画家たちの師匠として名が出るくらいの「ポンピエ」の作品が並ぶ。「フランス絵画の19世紀」というより、「もうひとつの19世紀フランス絵画史」だろう。
フランス絵画の19世紀:http://www.france19.com/

2009/06/12(金)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00004874.json s 1206972

日建設計《木材会館》

[東京都]

竣工:2009年

日建設計による新木場の《木材会館》。担当の勝矢武之氏に案内していただいた。西側ファサードの大胆な構成にまずインパクトを受ける。最近のデザイン色の強い日建設計の建築のなかでも、ひときわアトリエ色が強い作品だろう。木材会館というだけあって、木材のさまざまな利用にこだわりを感じる。各階の壁や天井など内装のあらゆる部分で木材が使われている。この規模と用途では法規的に内装制限がかかり、これだけ大胆に使うことはこれまでできなかったのであるが、2000年の法改正で定められた避難安全検証法を用いることによって可能としている。また構造はSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造であるが、7階だけは木構造となっている。約25m飛ばされたコの字型構造体は、NC加工によって伝統的な継手である追掛大栓に、白カシの木栓がはめこまれて一体化されたものである。複雑な断面とその間の天窓によって光が天井に濃淡法を描く。
さて勝矢氏からはさまざまなことを説明していただいた。触れておくべき凝ったディテールは多くあるのだが、特に興味深かったのはこの建築が新しいオフィス建築の一種のプロトタイプとなっているところであった。プラン上特徴的なのは、西側の深いテラスである。ユニヴァーサルスペースとしてのオフィス空間に方向性が加えられることで、そのユニヴァーサル性が実はそうではなかったという事実を突きつける。しかし、それだけではないという。そもそも四面が全部違うのだと。確かにプランを見直せばそうだ。オフィスの矩形性を保ちつつも、それぞれの面にそれぞれの機能と空間が与えられ、自然と非対称性が生まれる。ところで、この話はレム・コールハース/OMAによる《ドバイ・ルネッサンス(Dubai Renaissance)》という回転する超高層のプロジェクトにも結びつく。そもそも日の光にあわせて回転すれば、建築は方向性から自由になるのだ。この木材会館はもちろん回転することはないのだが、建築の宿命ともいうべき方位の問題を、外部から内部にいたるにつれて消していき、それによって建築における方角性と非方角性を結びつけているのだ。

撮影:Nacasa & Partners Inc.

2009/06/13(土)(松田達)

葛井洋彰・齋藤有希子 2人展「spot/draw」

会期:2009/06/02~2009/06/13

ギャラリー16[京都府]

どちらもドットで構成した絵画を発表していたが、二人の印象はまったく異なる。規則的にドットが並んでいるように見える葛井の作品は、まず、真っ先に色の情報のみが目に飛び込んでくるが、じっくり見ると丁寧に描き込まれた奥行きのある透明感が美しく、虫眼鏡などのレンズでモノを拡大してみるときのような面白さがある。一方、齋藤の作品は、混じり合う絵具の色彩と、叙情的な雰囲気のある植物や風景のモチーフが物語のイメージを掻き立てる。不安定で頼りない印象の中に、ついもう一度振り返ってしまうような魅力があった。どちらも記憶に残る作品だったが、見るという絵画の楽しさをじっくりと味わえる展示空間であったのがなにより良かった。

2009/06/13(土)(酒井千穂)

2009年07月15日号の
artscapeレビュー