artscapeレビュー
2009年07月15日号のレビュー/プレビュー
ネオテニー・ジャパン
会期:2009/05/20~2009/07/15
上野の森美術館[東京都]
精神科医の高橋龍太郎氏のコレクション。奈良、村上をはじめ、会田誠、山口晃、加藤美佳、名和晃平……と、だいたいどこかで見たことあるような、ということは、ここ10年あまりの現代美術をダイジェストしたような作品が並ぶ。その意味では新しい発見はないけど、どの作品はどの画廊で買ったかとか、いくらで買って現在はいくらするとか、邪推の楽しみはある。ともあれ、日本の現代美術はこういう奇特な方に支えられているのだ。
2009/06/26(金)(村田真)
ル・コルビュジエと国立西洋美術館
会期:2009/06/04~2009/08/30
国立西洋美術館[東京都]
開館50年を記念する小企画展。本館設計者ル・コルビュジエのスケッチや図面、写真、マケットなどで本館建築の秘密と西美の歴史をたどる。興味深いのは、コルビュジエはこの美術館が手狭になったら、四角い展示室の外側に一周二周と展示室を設けていって、どんどん拡大していく「無限成長美術館」というコンセプトをもっていたこと。これは敷地の問題で実現できなかったが、できていたら画期的な美術館になっていたと思う。コレクションの増加にともなうスペース不足は、どの美術館にとっても宿命的な課題なのだから。
2009/06/26(金)(村田真)
さよなら ポラロイド
会期:2009/06/16~2009/06/27
ギャラリー井上[大阪府]
昨年、ポラロイドフィルムの製造中止と言うニュースが伝わったとき、ショックを受けた人も多かっただろう。あの独特の質感、すぐに結果が見られるという特徴を持つポラロイドは、写真家たちの創作意欲を大いに刺激してきた。日本でも荒木経惟、森山大道などがユニークな作品を発表している。映像作家で多摩美術大学教授の萩原朔美もポラロイド愛好家の一人で、製造中止の一報を聞いて「何かひとつ時代の終焉を告げる木霊」を感じとり、「消え去るフィルムにさよならを言うために」と展覧会を企画した。昨年10月に、東京・阿佐ヶ谷のギャラリー煌翔で、27人が参加して第一回目の「さよなら ポラロイド」展を開催。今年は6月6日~14日の京都展(カフェショコラ)に続いて大阪展も開催された。その間に参加者は55名になり、最終的には100人にまで増やす予定だという。
萩原が教えている多摩美術大学の関係者である鈴木志郎康、高橋周平、港千尋、石井茂、神林優らに加えて、榎本了壱、森山大道、山崎博、屋代敏博、鈴木秀ヲなど出品者の顔ぶれもなかなかユニークである。実はぼく自身も「きのこ狩り」というちょっと変な作品を出品している。どうやらポラロイドには、撮り手を面白がらせ、エキサイトさせる不思議な力が備わっているようだ。全体的に遊び心を発揮した作品が多くなってくる。ポラロイドフィルムの存続を望む声は世界中で高まっており、最新情報によると、どうやらアメリカのグループがオランダの工場を買収し、2010年中にポラロイドの発売をめざすプロジェクトを展開中という。そうなると「こんにちは ポラロイド」展も企画できるのではないだろうか。
2009/06/27(土)(飯沢耕太郎)
稲垣由紀子 展
会期:2009/06/16~2009/06/27
Ui atelier[大阪府]
版画家稲垣由紀子の個展。1993年から2002年にかけて制作された、版画とドローイング作品を「水辺」というテーマで再構成している。少し昔の作品だが、見に行って良かった。湖や川の深さ、水の透明度、色、それぞれの情景が会場を出たあとでも頭の中に浮かんできた。
2009/06/27(土)(酒井千穂)
やなぎみわ「婆々娘々!(ポーポーニャンニャン)」
会期:2009/06/20~2009/09/23
国立国際美術館[大阪府]
大阪の国立国際美術館のやなぎみわ展。なんとルーブル美術館展と同時開催ということで、お客の入りを心配したのだが、日曜日ということもあってけっこうにぎわっていた。今回は旧作の「マイ・グランドマザーズ」「フェアリー・テール(寓話)」シリーズに加えて、6月7日から開催されているヴェネチア・ビエンナーレにも出品されている新作「ウインドスェプト・ウィメン」シリーズが、国内で初公開されている。
「マイ・グランドマザーズ」はさっと流し見。「フェアリー・テール」のシリーズは、やはりとても魅力的な作品であると感じた。イノセントと残酷さに引き裂かれた少女性が、説得力のある物語として練り上げられている。「ウインドスェプト・ウィメン」も面白い。世界に嵐と破壊をもたらす「風の女神」たちの群像だが、モノクロームの巨大プリントが効果的で、見る者の心を揺さぶる力がある。ただ、特設のテントの中で上映されている映像作品の出来栄えはもう一つか。メイキング映像としての意味合いしか感じられなかった。それにしても、やなぎみわの真骨頂は物語性の強い神話世界の構築にあることを、あらためて確認することができた展示だった。
2009/06/28(日)(飯沢耕太郎)