artscapeレビュー
2009年10月15日号のレビュー/プレビュー
第4回カルチベートトーク「アーティストの彦坂尚嘉さんと語る、こたつ問題1970~2009/建築と美術のあいだ」
会期:2009/09/28
建築会館[東京都]
越後妻有トリエンナーレ2009において、作品としての完成度を疑われたある作品をめぐり、アイディアコンペの上位作品にみる問題性、アートの展覧会に建築関係者が出展するときの問題、審査の問題などを問う討議がなされ、五十嵐太郎氏は「こたつ問題」と名付け(作品名は「みんなのこたつ」)、建築系ラジオにて配信された。しかし「謝罪会見」「欠席裁判」と名付けられたこの配信回は、笑い声なども混じっていたことから、単なる個人攻撃ではないか、メディアとしてのモラルを問うなど、むしろ配信自体が問題化され、「『こたつ問題』問題」という二重化された問題となり、ネット上において、ブログやツイッターなどを中心として賛否両論を巻き起こした(配信直後の8月半ばから9月末まで)。これらの是非をめぐって、問題を決着させるために五十嵐氏が企画したのが第4回カルチベートトークである。
おそらく建築系のイベントとしては初めて、Twitter中継+イベント映像配信を同時に行なった。討議の内容は担当者がTwitterによって要約を実況中継し、定められたハッシュタグを用いて会場外の意見をリアルタイムに会場内に取り入れた。映像配信はUstreamとStickamという二つのサービスを利用し、二つのライヴ映像を用いて行なった。また筆者は「こたつ問題」に関するさまざまなメディアの言説をまとめたページを用意し、そこからTwitter+映像を同時に見られるようにした(第4回カルチベートトーク公開ページ)。ネット上の臨場感は説明しにくいが「このライブ感は素晴らしい」「素晴らしすぎる!Twitter楽しい。ものすんごいライブ感です!」「うう、やはりtwitter上だけだと議論の流れを追いにくい... しかし、この完全同期でもなく非同期でもない感じは新鮮ではある」などコメントがあったので、それなりの新しい感覚があったといえよう。イベントの新しい体験方法という意味でも、実験的で有意義な試みであったといえる。
討議の内容は多様であり、批評とメディアとモラルをめぐる、実にアクチュアルなテーマが展開された。特に今回は、建築家・美術家・批評家だけでなく、ネットを通して学生や他の業界の人など多くの人が、この問題にプレイヤーとして参加したため、直接的な意見や立場表明のやり取りが多く行なわれた。批評的言説に誰でもリアルタイムに参加できる状況が生まれたことは、ネットテクノロジーの進化に負っている。その最初期であることから、多くの人はさまざまな違和感や痛みを覚えたかもしれない。しかし、今回のイベントが想像以上に注目を浴びたのは(最後の瞬間で、映像閲覧者数は862人という記録となった)、誰もがメッセージを発することができる以上、誰もがメディアの発信側でもあるという理由もあったであろう。誰もがネットを通じてそれにまつわる言説に参加できるという状況が生まれたことこそが、もっとも批評的な出来事であったといえるかもしれない。
イベントURL:http://news-sv.aij.or.jp/jnetwork/scripts/view30.asp?sc_id=2372
写真提供:木村静
2009/09/28(月)(松田達)
廣中薫・オープンスタジオ
会期:2009/09/28~2009/09/30
BankARTスタジオNYK[東京都]
BankARTに1カ月半スタジオを借りていた廣中さんの発表。不定形の紙に描きなぐったような作品が床に何枚か置いてある。壁にも何点か小品が掛かっているのだが、よく見るとうまいんだな。あとさき考えずに破壊的行動に出るのがこの人の強みだろうか。
2009/09/29(火)(村田真)
杉浦貴美子『壁の本』
発行所:洋泉社
発行日:2009年9月3日
カバーに「街中に絵があふれている」と書かれたように、壁を撮影する「壁嬢」(石川初・談)こと、杉浦貴美子による初の写真集である。壁の写真といえば、筆者が編集委員長を担当している『建築雑誌』の表紙である、赤や緑など、全体がひとつの色に塗られたさまざまな壁を撮影する、佐々木光のシリーズもそうだが、杉浦のそれはさまざまな要素といろいろな色がせめぎあうキャンバスとして壁を切りとる。その結果、厳選された写真は、偶発的に生まれたコラージュだったり、抽象絵画のような美しさをもつ。巻末の絵解きも愉しい。一方、写真家の小山泰治は、超高解像度のデジタル写真によって東京の表面をスキャンしていくが、もとの意味を引きはがし、宇宙の誕生を目撃するかのような壮大なイメージを与える。こうして比較すると、杉浦の『壁の本』は、壁の履歴に注目し、路上観察学にも通じる対象への愛を強く感じさせるものだ。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)
真壁智治 チームカワイイ『カワイイパラダイムデザイン研究』
発行所:平凡社
発行日:2009年9月
数年前から真壁智治が、研究室の学生によって結成されたチームカワイイとともに、カワイイをテーマに現代のデザインを調査した成果が一冊の本として発表された。軽そうなトピックに思われるかもしれないが、400ページに及ぶ大著である。真壁によるコンセプトの論文、デザインの事例紹介、現代建築の検証など、二回のシンポジウムやリサーチをすべてつぎ込んだ総力戦だ。なるほど、かわいいという感性が重視されているのは間違いない。今後カワイイについての考察を深めていくうえでの基礎資料集成といったおもむきである。筆者も、本書に「かわいい建築論をめぐって考えておくべきこと」というテキストを寄稿した。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)
マシュー・フレデリック『建築デザイン101のアイデア』
発行所:フィルム・アート社
発行日:2009年8月10日
本書の意図は明快である。建築デザインの教えをアフォリズム的な言葉によって並べること。先にイラストがあって、次に力強い言葉が続く。見開きでセットになっている。一番目は「どのような線で描くべきか」から始まり、35番目の「眺めるのも好きだけど、眺めに背を向けるのも悪くない」という発想の転換を混ぜたりしながら、最後は「ひたすら何かを描きなさい」「気の効いた名前をつけてみなさい」「建築家というものは遅咲きなのです」で終わる。実際、建築の設計とは、さまざまなことを同時に考える複雑な作業だが、ここではなるべく分解し、チェックすべき事項を挙げているのだ。デザインに行き詰まったときに、開いてみるのもよいだろう。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)