artscapeレビュー
2009年10月15日号のレビュー/プレビュー
キタイギタイ ひびのこづえ展──生きもののかたち 服のかたち
会期:2009/07/25~2009/09/23
伊丹市立美術館[兵庫県]
昆虫や動物、自然現象などをモチーフにしたひびのこずえのコスチュームやドレス、帽子などの小物などを展示した展覧会。素材、アイディアの面白さもさることながら、なにより、絵本と同じくらいファンタスティックなアイディアスケッチの数々に目を奪われた。限界のない、自由な想像力を持ち続けるって素晴らしい。
2009/09/23(水)(酒井千穂)
水都大阪2009コンサート「SOUND QUEST -LOOP-」今西玲子(琴)×Aki Ueda(シタール)×evala(エレクトロニクス)
会期:2009/09/23
文化座劇場(水都大阪2009 中之島水辺会場)[大阪府]
まだ見ていなかった《トらやんの大冒険》大阪市役所、大阪府立中之島図書館などの展示会場をめぐってから文化座劇場 へ。
琴奏者・今西玲子による水都大阪2009コンサート企画。シタール奏者Aki Uedaとエレクトロニクスサウンドアーティストevalaとのセッションライブ。琴とシタール、電子音の演奏の絶妙なハーモニーに会場の外から聞こえてくるアナウンスやさまざまな雑音が入り混じる不思議なライブだった。けれど、それらの複雑な音は意外と心地良く、なによりその新鮮な感覚に、琴の音の奥行きの深さを知った。12日に開催される今西玲子×ニッポンガールズのライブも見たいところ。
2009/09/23(水)(酒井千穂)
ステッチ・バイ・ステッチ 針と糸で描くわたし
会期:2009/07/18~2009/09/28
東京都庭園美術館[東京都]
「針と糸で描く」アーティストの作品。「針仕事」は昔から「女の仕事」とされてきたせいか、女性アーティストが多く、男は奥村綱雄にしろヌイ・プロジェクトの吉本篤史にしろどこか病的だ。あるいは、病的なものを癒すために細かい「針仕事」に没入したのかもしれない。圧巻は、ドレープやあやとりやキャンヴァス画を大きな布に刺繍した手塚愛子のインスタレーション。モチーフはすべて糸や布に関係している。ベラスケスの《ラス・メニーナス》もあったが、ここはやはり、織物競技に負けたアラクネがクモに変えられたという同じ画家の神話画《アラクネ》もほしいところ。
2009/09/25(金)(村田真)
ある風景の中に In a Landscape/明倫茶会「沈黙」の茶会
会期:2009/09/15~2009/10/18
京都芸術センター[京都府]
見慣れた風景やそこで聞こえる音に意識を集中すると、普段とは異なる感覚を体験できるかも知れない、そこ新たな発見があるかもしれないというテーマのもと、6名の作家が作品を発表。参加作家は、梅田哲也、岡田一郎、鈴木昭男、ニシジマアツシ、藤枝守、矢津吉隆。センター内の制作室で発表されている梅田哲也のインスタレーション作品は、先に見た「汚い“ピタゴラスイッチ”」水内の作品とよく似ているが、こちらは汚くはない。4階の屋外通路に設置された藤枝守の《Aeolian Harp》は近くに立ち、耳をそばだてていると風の振動によって奏でられるハープの音が聞こえてくる作品だというが、そのときはまったくなにも聞こえなかった。そのかわり、近くでゴーゴーと回転する換気扇の耳障りな音ばかりが聞こえてくる。けれど「普段見慣れた風景」とは、見慣れているものしか見ていない私の記憶のイメージだけの「風景」であり、生活環境にあふれる音なんてほとんどなにも聞こうとしていないのだと自分の感覚を改めて思い知る。それぞれの表現手法もさまざまで、全体のバランスが良い展覧会。また違う感想がもてそうなので、もう一度見に行こうと思った。
2009/09/26(土)(酒井千穂)
SHOJI UEDA 1913-2000 写真家・植田正治の軌跡
会期:2009/09/19~2009/11/30
植田正治写真美術館[鳥取県]
鳥取県西伯郡伯耆町の植田正治写真美術館に出かけてきた。カフェトークということで、ラウンジでコーヒーを飲みながら「植田正治とその時代」の話をするという、おしゃれなイベントに講師として招かれたのだ。植田正治美術館は1995年に開館。高松伸設計のコンクリート打ちっぱなしの建物は、植田の戦前の名作「少女四態」(1939)を象ったユニークな外観である。2000年の植田の歿後も、しっかりとした企画の展示を続けてがんばっている。ただ、交通の便があまりよいとはいえないので、集客には苦労しているようだ。名峰、大山の麓の素晴らしい環境なので、ぜひ一度といわず二度でも三度でも足を運んでほしい(12月、1月、2月は冬期休業)。
さて、今回の展示は2005~2008年にスペイン、スイス、フランスの6会場を巡回した展覧会がもとになっている。フランスの写真評論家、ガブリエル・ボーレが、1週間美術館の収蔵庫に通い詰めて選んだという作品は、初期から晩年に至る植田正治の作品世界をバランスよく概観することができる。特に、あまり注目されてこなかった1970~80年代の「風景の光景」シリーズや、最晩年の「黒い海」(1999)の連作など,植田の新たな側面にスポットを当てていて、なかなか興味深い展示だった。こうして見ると、植田の作品がいまヨーロッパの観客に、「植田調」(UEDA-CHO)と称されて驚きの目で迎えられている理由がわかるような気がする。そのどこかドライで、くっきりとしたフォルムを保った写真空間の構築は、まったく日本人離れしていて、フランスやイタリアの作家のようなのだ。鳥取県という「地方」で活動しながら、その視点は国際的に充分通用する高みに達していた。これは痛快な生き方だと思う。
2009/09/27(日)(飯沢耕太郎)