2019年07月15日号
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artscapeレビュー

2011年04月01日号のレビュー/プレビュー

早川良雄ポスター展

会期:2011/03/05~2011/06/05

国立国際美術館[大阪府]

日本の本格的なグラフィック・デザイナーの第一世代が河野鷹思や原弘であるなら、亀倉雄策や早川良雄は第二世代にあたる。そしてこの巨匠たちはいずれも1951年の日本宣伝美術会創設に関わり、日本のデザイン界を牽引した。今回の早川良雄(1917─2009)のポスター展は、作家自身により国立国際美術館に寄贈された作品を中心とする66点のポスターにより、このデザイン界の巨人の足跡を辿ろうとするものだ。
目を惹きつけずにいられないのは、1950年代前半に発表され、以降、伝説のポスターとして語り継がれてきた「カロン洋裁」と「近鉄百貨店の秀彩会」のポスターだろう。単純な形態と色彩に還元された女性のイラストレーションが画面に大胆に配され、「図」である衣服が「地」となり、その上に置かれた2種類の書体──早川自身が考案した手描きの「カストリ明朝」と硬書体──が全体をぴりっと締める。関西のデザイナーたちはこれらのポスターに並々ならぬ衝撃を受けた。のちに早川らに次ぐ世代の代表格となる田中一光は、駅のホームで見た「カロン洋裁」のポスターの「知的な凶暴性、前衛的なメンタリティー」にすっかり心を奪われ、それが当時の主流であったアール・デコや分離派、バウハウス流構成主義への反発であるように感じたと記している(『田中一光自伝──われらデザインの時代』白水Uブックス、2004)。
時代を下るにつれ、早川のポスターには人の心をそっと包み込むような柔らかさとパステル調の鮮やかな色彩が表われる。1980年代のINAXのためのポスターは、柔らかな形と色が印象的なキャッチコピーと巧みに釣り合わされ、ある意味、当時のポストモダンの雰囲気を伝えるだろう。初期から晩年にかけての変化は、時代時代の流行に沿うものとも反発するものとも受け取れ、グラフィック・デザイナーという仕事の面白さと困難さを改めて実感した。[橋本啓子]


左=早川良雄《カロン洋裁生徒募集(カロン洋裁研究所)》、1954年、国立国際美術館蔵
右=早川良雄《第11回秋の秀彩会(近鉄百貨店)》、1953年、国立国際美術館蔵

2011/03/13(日)(SYNK)

生誕150年記念 アルフォンス・ミュシャ展

会期:2011/02/05~2011/03/21

堺市博物館[大阪府]

チェコ出身の画家、アルフォンス・ミュシャの生誕150周年を記念して開催された回顧展。ミュシャがフランスにおけるアール・ヌーヴォーの代表的作家として活躍をする「パリ時代」と、その後の滞在地となった「アメリカ時代」、祖国に帰ってライフ・ワーク《スラブ叙事詩》に取り組むことになる「チェコ時代」という三部構成で、初期から晩年にかけての作品約170点が展観された。この区分のなかで、短い活動期間でありながら、非常に際立った作品群を残したのが、デザイナー時代のミュシャだ。本展ではその嚆矢となったサラ・ベルナールのポスター作品をはじめとして、各種装飾パネルやモエ・エ・シャンドンのメニュー、ビスケット缶などベル・エポック期の華やかな風俗をしのばせるもの、デザイナー向けの図案集『装飾資料集』に至るまで、アール・ヌーヴォーの豊かな作例を見ることができる。魅惑的な女性像・渦を巻きながら流れ出す髪・意匠を凝らしたローブの流麗な襞・顔周りの光輪のモザイク状装飾やアラベスク模様・繊細な色調が創りだす「ミュシャ様式」は、アール・ヌーヴォーの隆盛を導いた。だが、ミュシャ作品の魅力はただそれだけに留まるものではない。その装飾文様が有する「象徴」の力がいかに強いものであるか。彼のグラフィック作品は、念入りに構想された構図のうちに、複雑な理念的象徴体系を包含しているのだ。このことは、ミュシャがゴーギャンと交友し、また神秘主義に没頭していたことを考えれば不思議ではない。アール・ヌーヴォーの巨匠としてのミュシャのポスター芸術は、装飾性・諸芸術の統合・象徴主義・綜合主義に特徴づけられる世紀末芸術の様相に照らしてみれば、新たな魅力を発見できるだろう。国内最大のミュシャ・コレクションで知られる堺市のこと、今後さらに個性的なテーマに特化した展覧会にも期待したい。[竹内有子]

2011/03/13(日)(SYNK)

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流麻二果 展

会期:2011/03/11~2011/03/25

GALERIE Petit Bois[大阪府]

彼女の作品は具体的な情景をもとに描かれているが、一見したところは純然たる抽象画だ。色彩が流動しながら重なり合い、瑞々しい交響を奏でている。1点ものの大作もよいが、複数の小品によるアンサンブルも素晴らしい。過去に京都のアサヒビール大山崎山荘美術館での企画展と、大阪のPANTALOONでの個展で彼女の作品を見たことがあるが、オーソドックスな展示に徹した今回が、私にとっては最も印象深い。

2011/03/14(月)(小吹隆文)

ラファエル前派からウィリアム・モリスへ

会期:2011/02/25~2011/03/27

美術館「えき」KYOTO[京都府]

ラファエル前派兄弟団とそれに続く第二世代のウィリアム・モリスやエドワード・バーン=ジョーンズらを中心に、彼らの絵画と装飾芸術のなかに通底する、諸芸術の統合への志向に照明を当てた展覧会。「ラファエル前派」を狭義にではなく、「ラファエル前派主義」ないしは「ラファエル前派に関与/と共通点をもつ芸術家たち」という広い意味に解釈し(一般に唯美主義とされる作家たちの作品までをも含めているところが興味深い)、アーツ・アンド・クラフツ運動に代表される、19世紀後期の英国芸術の潮流を概観している。同運動は、モリス・マーシャル・フォークナー商会の設立以前、モリスとバーン=ジョーンズらによる家具製作に端を発している。だが、ラファエル前派のメンバーたちは画家が本業でありながら、格下と見なされていた装飾芸術を自ら製作しつつ、純粋美術と装飾芸術を再び一体化しようとする点において、モリスらのアーツ・アンド・クラフツ運動が継承する反アカデミズムの根幹を成していた。本展に出品された絵画の「額縁」には、彼らの手で製作されたものがあるが、その思想の一例ともいえよう。絵と額縁は調和し、両者が協力し合って共に輝きを増している。また、油彩画のなかに描かれた装飾芸術が、観者にリアリティをもって迫ってくる理由もそこにある。今回の展覧会の見どころは、バーン=ジョーンズが人物を、ヘンリー・ダールが花・地面のデザインを行なったモリス商会の《タペストリー:東方三博士の礼拝》(251×373cm)。モリスがデザインした《ステンドグラス:シンバルとリュートの奏者》もまた素晴らしい。モリスたちの装飾芸術は、彼らの制作に対する信条と態度、その誠実でいて清らかな美によって、私たちを惹きつけてやまない。しばし時を忘れて見入った。[竹内有子]

2011/03/18(金)(SYNK)

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大黒貴之 彫刻展~渡独以前 2000-2011~

会期:2011/03/20~2011/03/21

大黒邸[滋賀県]

木材、和紙、荒縄を用いた木彫作品を制作する大黒貴之が、滋賀県近江八幡市の実家で個展を行なった。この春からドイツに渡る彼にとって、離日直前の挨拶ともいうべき展覧会だ。田畑を持つ実家の周囲は、典型的な田園地帯。そして木造日本建築の母屋には、立派な仏間も備わっている。なるほど、彼の作品のルーツは生まれ育ったこの環境にあったのか。作品は、母屋と2軒の離れに10点を展示。同時に、彼の制作風景や考え方が伝わるドキュメント映像の上映も行なわれた。

2011/03/19(土)(小吹隆文)

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