artscapeレビュー

平竜二「Vicissitudes 儚きもの彼方より」

2011年07月15日号

会期:2011/06/08~2011/07/10

LIBRAIRIE6[東京都]

あまり他に例のない独特の作風の持ち主だと思う。平竜二は1960年熊本生まれ。高村規に師事してコマーシャル写真の仕事をした後、1988年に渡米し、ニューヨークで栗田紘一郎からプラチナプリントを学んだ。プラチナプリントは光と影の中間の領域を豊かなグラデーションで表現できるが、技術的にはかなりコントロールが難しい。平のプラチナプリントは完成度が高く、ここまで完璧に使いこなせる写真家はあまりいないのではないだろうか。
今回展示された「Vicissitudes 儚きもの彼方より」は二つのシリーズで構成されていて、ひとつはタンポポやオジギソウなど自分で種子から育てた植物を、シンプルに黒バックで撮影したもの。植物のフォルムを、細やかに、愛情を込めて写しとっている。もうひとつのシリーズでは、カメラの前にフィルターを置き、そこに写る影を長時間露光で定着した。光源が 燭のように淡く、弱い光なので、被写体になっている花や昆虫の影に微妙な揺らぎが生じてきている。こちらの「影」シリーズの方が、この写真家の「儚きもの」に寄せるシンパシーと、生きものの微かな命の震えを受けとめる感度の高さをよく示しているように思えた。
日本の写真家で、このように繊細な美意識の持ち主ということになると、中山岩太の1930~40年代の仕事くらいしか思いつかない。「影」シリーズの、どこからともなく射し込んでくるほのかな光の質も、中山と共通している。ただ、中山の濃密なエロティシズムを感じさせる作品と比較すると、平のプラチナプリントがどこかひ弱な印象を与えることは否定できない。さらにこの独自の作品世界を突き詰め、毒や怖さをも秘めた生命力のエッセンスをつかみ取ってほしい。

2011/06/15(水)(飯沢耕太郎)

2011年07月15日号の
artscapeレビュー