artscapeレビュー
パウル・クレー──おわらないアトリエ
2011年07月15日号
会期:2011/05/31~2011/07/31
東京国立近代美術館[東京都]
パウル・クレーというと、ぼくのなかでは嫌いになる理由はなにもないのに、なぜか好きにもなれないという微妙な位置にいたが、この展覧会を見てその理由が少しわかったような気がする。同展はただたんに作品を時代順に並べるのではなく、「クレーの作品は物理的にどのようにつくられたのか」という視点に立ち、さまざまな技法や形式ごとに作品を分類・展示してみせている。たとえば「写して/塗って/写して」では、鉛筆やインクで描いた素描を黒い油絵具を塗った紙の上に置き、針で描線をなぞって転写した上に水彩絵具で着色するという技法を紹介。また「切って/回して/貼って」では、いちど仕上げた作品を切り分けて独立した2点の作品に、あるいは左右を入れ替えて別の作品にしてしまう事例を展示。つまり、クレーの作品には終わりがなく、ある意味つねに生成過程にあるということだろう。そうしたある種のハンパさが、理由だったのかもしれない。ぼくの好みはともかく、こうした生成過程にある作品や「おわらないアトリエ」という考えは、これからますます発展の余地があるように思う。
2011/06/22(水)(村田真)