2022年10月01日号
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artscapeレビュー

劉敏史「-270.42℃, My Cold Field」

2011年07月15日号

会期:2011/05/28~2011/06/25

AKAAKA Gallery[東京都]

劉敏史(You Minsa)は、2005年にビジュアルアーツフォトアワードを受賞した作品を、翌06年に写真集『果実』(ビジュアルアーツ)として刊行した。エチオピア南部のハマルの人々を撮影した端正なポートレートは、彼の高度な思考力と美意識をよく示す作品だったと思う。ただ、あまりにも隙なく完成され過ぎていて、このままだと袋小路に突き当たるのではないかという危惧もまた感じていた。今回AKAAKA Galleryで展示された新作「-270.42℃, My Cold Field」を見ると、彼が新たな領域に進むことでその危機をうまく脱したことがわかる。以前の作品を知るものにとっては、意外な選択に見えるかもしれないが、これはこれで常に絶対的な他者、あるいは外部の世界に向き合おうとする劉の志向性がよくあらわれた作品といえるのではないだろうか。
テーマになっているのは、つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)の施設の内部。素粒子物理学の最先端の施設で、僕はこの方面はまったく門外漢なので正直よくわからないのだが、宇宙創成のビッグ・バンの時に生成された「反物質」を人工的につくり出すという研究を進めているらしい。金属製の機器に無数のコードの束が複雑に絡みあっているさまは、あたかも人間の血管や神経組織の解剖図を見るような生々しさを感じる。産業用ロボットが意識を持つようになり、他の機械類と結合して増殖していく楳図かずおの傑作『わたしは真悟』(1982~86)を思い出したのだが、サイエンスの最先端とアニミズム的な空間はどこかでつながっているのかもしれない。最初は4×5の大判フィルムで撮影していたのだが、それでもまだ情報量が足りないので中判カメラ用のフェーズワンのデジタルバックに変えたのだという。輪郭線がキリキリと立ち上がってくるようなメタリックな色味のプリントも、よくコントロールされていて、見事な出来栄えだ。

2011/06/17(金)(飯沢耕太郎)

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