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artscapeレビュー

ワーグマンが見た海──洋の東西を結んだ画家

2011年07月15日号

会期:2011/06/11~2011/07/31

神奈川県立歴史博物館[神奈川県]

横浜開港まもない時期に来日し、激動の幕末・維新期を報道画家として見つめ、日本の画家にも多大な影響を与えたチャールズ・ワーグマン。その来日150周年を記念した特別展。ワーグマンは『イラストレイテッド・ロンドンニュース』の特派員として日本のニュースをイギリスに送り、横浜では風刺絵の雑誌『ジャパン・パンチ』を発行して日本漫画(ポンチ絵)の原点のひとつにもなったが、美術史で最大の功績はやはり油絵の技法を高橋由一や五姓田義松に伝えたことだ。とはいえ、ワーグマン自身の画力は「素人画家」の域を出ないとされ、しかも世代的に印象派以前の前近代的な絵であり、それが日本の近代洋画の出発点になったことは冷静に見つめる必要がある。しかしそうはいっても、彼の遠近法や明暗表現が当時の日本の絵画に比べてあきらかに抜きん出ていることは事実。同展には由一によるワーグマンの模写や構図の似た作品、義松かワーグマンか判断しがたい作例も出ていてじつに興味深い。ちなみに、やせ衰えた母を冷徹に描いた義松の《老母図》は、ルシアン・フロイドのごとく対象に文字どおり肉薄して感動的だ。おっと、こんなところで小沢剛に遭遇。なにかのリサーチだろうか。

2011/06/30(木)(村田真)

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