2019年09月15日号
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artscapeレビュー

柳本史歩「生活について」

2012年08月15日号

会期:2012/07/21~2012/07/31

コニカミノルタプラザ ギャラリーC[東京都]

柳本史歩は1990年代から、しっかりとした技術に裏づけられた、端正なモノクロームのスナップショットを発表し続けてきた。力のある写真家なのだが、自分の写真の世界をどのように展開していくのか掴み切れていないのではないかという思いがずっとあった。だが、今回の個展「生活について」を見て感じたのは、彼が素晴らしい鉱脈を掴みかけているのではないかということだった。
柳本は東日本大震災の前から、岩手県下閉伊郡山田町を何度となく訪ねて撮影を続けてきた。岩手県の太平洋沿岸、宮古と釜石の間にあるこの港町に通うようになったのは、いくつかの偶然の積み重ねだったようだが、海に生きる男たちが織り成す荒々しい光景のたたずまいは、彼の写真の質を少しずつ変えていったのではないかと思う。今回の展示からは、大きな痛手を受けながらも、次第に日常の秩序が恢復しつつある震災後の山田町の「生活」のディテールが、細やかに、だが力強く浮かび上がってくる。
写真に挟み込むように展示されているテキストが、効果的に働いていることにも注目すべきだろう。単純な解説ではなく、かといってまったくかけ離れているわけでもなく、彼が出会った光景や人々との関係を柔らかに描写していく文章が、写真ととてもうまく絡み合っている。むろん今回の展示は中間報告と言うべきものであり、今後さらに長期間の撮影を続けていくことで、「下閉伊サーガ」とでも言うべき写真=物語に育っていくことが、大いに期待できそうだ。

2012/07/31(火)(飯沢耕太郎)

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