artscapeレビュー

2011年10月15日号のレビュー/プレビュー

原久路「Picture, Photography and Beyond」

会期:2011/09/03~2011/10/02

MEM[東京都]

2009年に「バルテュス絵画の考察」シリーズを発表して注目を集めた原久路の新作展が開催された。新作といっても、前作から派生した作品である。テーマになっているのは、バルテュスの素描や油彩画で描かれている静物で、前作と同じようにやはり微妙な修整が施されている。たとえば素描に描かれた洋梨のような果実(西欧静物画の伝統的な主題)は柿に置き換えられ、撮影の舞台になった旧診療所の建物に残されていた医療器具が、画面の中に微妙に配置を換えて写し込まれている。一点だけ出品された少女の肖像も含めて、ここでも原自身の「バルュテス絵画」に対する解釈や批評が、はっきりと打ち出されているといえるだろう。
結果として、できあがった静物写真=絵画は、どこか神秘的でもある生命感をたたえた画像として成立している。それらを見ているうちに、野島康三が1920~30年代に制作したブロムオイル印画法による一連の静物写真を思い出した。《仏手柑》《枇杷》など、果実をテーマにしたこれらの静物写真もまた、アニミスム的といえそうな雰囲気を感じさせる。そういえば森村泰昌が野島の《仏手柑》を原画として、自分の手と足に置き換えた作品を発表したことがあった。森村もまた、野島の静物写真の不思議な魅力に気づいていたということだろう。
今回は、同じ画像から写真史の草創期に使われた鶏卵紙に焼いたプリントと、大きめのデジタルプリントとを並置する展示も試みられている。原の表現領域を拡大していこうという意欲を感じることができた。ただ、バルテュスのみにこだわり続けていくと、やや煮詰まってしまうこともありそうだ。他の画家や写真家たちの作品から得たインスピレーションも、積極的に取り込んでいってほしいと思う。

2011/09/07(水)(飯沢耕太郎)

寺内曜子 展

会期:2011/08/29~2011/09/10

表参道画廊[東京都]

ギャラリーの壁のところどころに、さまざまなかたちに切り抜いたストライプ模様の布が貼ってある。はて、なんのかたちだろう? 国か都道府県か、どこか島の輪郭かとも思ったけど、該当する地形が思いつかないし、貼ってある場所にもかたちにも規則性があるわけでもない。いちどギャラリーの入口に戻ると、そのガラス面に同じストライプ模様の大きな布が貼ってあり、ところどころ穴があいていた。この大きな布をぐしゃぐしゃに丸めて一部をハサミで切り取り、その断片を壁に貼っていたのだ。ああ、やっぱり寺内曜子だ、と納得。彼女の作品を初めて見たのは30年近く前、ロンドンのギャラリーでだ。その後、かんらん舎といういまでは伝説的なギャラリーでも発表していたが、今回はおよそ20年ぶりの再見。基本コンセプトが当時とまったくといっていいほど変わっていなかったのがうれしい。このチャラいポストモダンの時代気分のなかで、揺らぐことなく一貫したコンセプトで制作を続けることの困難さを思う。

2011/09/10(土)(村田真)

伊東卓「ROOMS」

会期:2011/09/06~2011/09/11

SARP[宮城県]

仙台市青葉区にあるSARP(Sendai Artist-run Place)を舞台に毎年開催されている「仙台写真月間」。仙台市在住の写真家、小岩勉を中心としたメンバーが、質の高い展示を展開している。今回は8月23日から9月18日にかけて城田清弘「続 家の方へ」、茂木大作「家族になりました」、別府笑「sanitas」(この展示だけart room Enoma)、工藤彩子「LOX」、秋保桃子「灯す」、伊東卓「ROOMS」、花輪奈穂「L」、小岩勉「FLORA#2」、野寺亜季子「北風 はと 太陽」が開催された。仙台にしっかりと根ざした写真の鉱脈が形をとり始めているように感じる。
そのうち、たまたま見ることができた伊東卓の「ROOMS」がかなり面白かった。伊東の本業は建物のリフォームで、既に住人が移り住んでしまった住居を見る機会が多い。最初は写真を撮るつもりはなかったのだが、2年前にふと思いついて、その空き部屋のたたずまいにカメラを向けるようになった。今回の個展では、そうやって撮りためた写真の中から13点を選び、半切のプリントに引伸して並べている。家具を移動した後の壁や床に残るかすかな痕跡、染みや埃の堆積、磨き込まれた床の木目、貼り残された日本地図、置いておかれたままの車椅子──それらを淡々と撮影しているだけのモノクローム作品だが、寡黙なイメージがなぜか強く心を揺さぶる。むしろ写真のフレームの外側、今は不在になった住人たちの行方などに、想像力が広がっていくように感じるのだ。伊東は仕事柄、こういう部屋に出会う機会が多いということなので、さらに撮り続けて、よりスケールの大きなシリーズとしてまとめていってほしい。「痕跡学」とでもいうべき思考が、そこから芽生えていきそうな気もする。

2011/09/10(土)(飯沢耕太郎)

OMA《マハナコン・タワー》

[タイ]

タイの国際ワークショップのあいだに、現代建築めぐり。ほかのアジアのグローバルシティと同様、ここでも都市のランドマークをめざす、OMAによる超高層ビルのプロジェクト、《マハナコン・タワー》が動いていた。改めて、東京にはもはやそうした活力がないのかと思う。《マハナコン・タワー》は、ミース的な均質空間を崩す、ヴォリュームを分節する帯が螺旋を描きながら駆け上がっていく、ホテル、マンション、商業施設が複合した建築である。

2011/09/11(日)(五十嵐太郎)

千代田芸術祭2011 展示部門「3331アンデパンダン」講評会

会期:2011/09/10~2011/09/11

3331 Arts Chiyoda[東京都]

千代田芸術祭2011の「3331アンデパンダン」展の講評を画家のO JUNさんとともに行なう。建築の場合は、敷地やプログラムからある程度、解答の基準を設定できるが、アートの作品は本当に幅広い。出展者とやりとりしながら、普段使わない頭脳を駆使して、なぜこの表現なのかを考えていく。五十嵐賞は、講評を担当した作品ではなかったが、岡崎京子の『ヘルタースケルター』の世界に入り込んだ山田はるかを選ぶ。ほかに最後まで悩んだ作家は、水戸部七絵、藤林悠、内田百合香、大庭彰恵、現代芸術最終兵器研究所だった。山田の作品は、最初に見たときは展示物を触ってはいけないと感じ、なぜ岡崎京子の漫画を置いてあるのか訝しく思い、二度目の訪問時にようやく開いた。そして執拗なまでに劇中の主人公になりきる作業に驚かされる。HPを参照すると、ジェンダーを軸にしたさまざまな制作をしており、さらなる展開の可能性を感じたことが、彼女を選んだ理由である。

2011/09/11(日)(五十嵐太郎)

2011年10月15日号の
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