artscapeレビュー
2013年05月15日号のレビュー/プレビュー
塔本シスコ生誕百年記念「卍字楼で花爛漫展」
会期:2013/04/05~2013/04/21
京都深草・企画工房「卍字楼」[京都府]
京都市にあるギャルリー宮脇でも同時に個展が開催されていたのだが、こちらは少し離れた深草にある会場での展覧会。駅から少し離れたところで、個人のお宅だったので玄関を開けるのも緊張した。ダンボールに描いた大型の作品、花や動物などを描いたキャンバスの作品、人形、着物、帯地、お菓子の空き箱や瓶に描いたものなど。座敷の床の間、縁側のスペースなども使って展示されていたのだが、自由でエネルギッシュな筆の跡、鮮やかな色彩が壮快でこちらまでとても気持ちいい。ギャラリー空間などで見るのとも異なる味わいが感じられたのは、明るく射し込む自然光だけによる展覧会だったせいもあるだろうか。うろうろと何周も見てまわり、長居をしてしまったのだが、見に行くことができて良かった。
2013/04/21(日)(酒井千穂)
梅佳代 展
会期:2013/04/13~2013/06/23
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
梅佳代が東京オペラシティアートギャラリーで個展を開催すると知って、ちょっと心配になった。彼女の、時々画面の右下に日付の表示が入っているようなスナップショットは、雑誌や小型サイズの写真集なら目に快く飛び込んでくるが、あの天井が高く広い会場にはうまくおさまらないのではないかと危惧したのだ。ところが、実際に展示を見て、その不安は見事に吹き飛ばされた。梅佳代の写真から伝わってくる生命力の波動は、写真を大きくプリントしようが、額縁におさめようが、変わりがないどころかさらにパワーアップしているようにすら感じられたのだ。会場全体のアートディレクションを担当したグラフィック・デザイナーの祖父江慎の力量もあるだろうが(カタログも素晴らしい出来栄えだ)、彼女の写真にもともと備わっている「巻き込み力」の強さをあらためて思い知らされた。
展示全体は「シャッターチャンスPart1」「女子中学生」「能登」「じいちゃんさま」「男子」「シャッターチャンスPart2」の6部、約390点で構成されている。2001年にキヤノン写真新世紀で佳作を受賞した「女子中学生」のあっけらかんとした野放図なカメラワークにも度肝を抜かれたが、今後の彼女を占ううえで重要なのは、現在も撮り続けている「能登」シリーズ(新潮社から写真集『のと』も刊行)ではないだろうか。生まれ育った石川県能都町、そこに住む家族と故郷の人々を愛おしさと批評的な距離感を絶妙にブレンドして撮り続けているこの連作は、梅佳代にとってライフワークとなるべきものだろう。だがそれだけではなく、地域社会と写真家との関係のあり方を、志賀理江子などとは別な形で切り拓きつつあるのではないだろうか。写真を目の前にして対話の輪が生まれ、それが周囲を巻き込みながら波紋のように広がっていく、そんな楽しい未来図が予測できそうな写真群だ。
2013/04/21(日)(飯沢耕太郎)
国立デザイン美術館をつくる会 第2回パブリック・シンポジウム「こんなデザイン美術館をつくりたい!」
会期:2013/04/21
朝から夕方まで、7時間に及ぶ、国立デザイン美術館をつくる会の第2回パブリック・シンポジウム「こんなデザイン美術館をつくりたい!」に登壇した。五十嵐のパートでは、宮島達男と一緒に、一般から寄せられたアイデアを紹介する。建築的な視点から見ると、やはりネットワーク型の提案が多く、その対極にランドマーク型も少しだけあった。ただ、ミュージアムは企画展だけでまわっていると考えている人が相変わらず多いと思う。実はコレクションと常設の展示こそが本当の勝負であり、施設としての重要な責務なのだが。成功例としてしばしばあげられるルーブル美術館やMoMAにしても、国立かどうかに関係なく、いずれもおそるべきコレクションをもっており、それこそが普段は美術に興味がなさそうな観光客を引き寄せる最大の理由である。
2013/04/21(日)(五十嵐太郎)
レオナルド・ダ・ヴィンチ展──天才の肖像
会期:2013/04/23~2013/06/30
東京都美術館[東京都]
上野ではラファエロ(国立西洋美術館)に続いてレオナルドの作品も見られる。なんとゼータクな。でも昨年も「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」やったけど、記憶に薄いなあ。覚えてるのは裸のモナ・リザが来ていたことくらいだ。今回もレオナルドの油彩は《音楽家の肖像》1点のみで、あとは素描とメモの「アトランティコ手稿」22葉と周辺の画家の作品。もちろんこれだけ来るのも大変なもんだが、しかし「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」という看板の重さに比してインパクトは弱い。これまで何度かレオナルドの作品がやって来たけど、それらを集めてひとつの展覧会にしたらかなりイケるんじゃないか。《モナ・リザ》をはじめ、《白貂を抱く貴婦人》《受胎告知》《ほつれ髪の女性》《音楽家の肖像》、そして数々の手稿類。これらが一堂に会せば「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」の名に恥じないけど、たぶんその規模はルーヴル美術館を除くほかのすべての国のすべての美術館でも不可能でしょうね。
2013/04/22(月)(村田真)
松江泰治『jp0205』
発行所:青幻舎
発行日:2013年03月15日
以前の松江泰治の写真集は、地表や都市を一定の距離を置いて撮影したモノクローム写真を素っ気なく並べただけだった。だが、2000年代以降、そのあり方が大きく変わってきている。一作ごとにスタイルを変え、遊び心、サービス精神が発揮されるものになっているのだ。この『jp0205』も、ページをめくっていくたびに、目の前にあらわれてくる眺めを追うだけで実に愉しい。
本作は2006年に刊行された『jp-22』(大和ラヂヱーター製作所)の続編にあたるもので、静岡県を舞台にした前作に続いて青森県(jp-02)と秋田県(jp-05)の各地を空撮している。写真集の解説の清水穣の文章(「無限遠と絶対ピント──松江泰治の空撮写真」)の言葉を借りれば、「晴天、順光、低空、真正面、絶対ピントという五つの条件を全て満たしうる」本作は、「jp」シリーズにおける松江のスタイルが、完全に確立したことを示している。その最大の見所は、彼が試行錯誤の末に見出した絶妙な視点の取り方によって、それぞれの土地の原像とでも言うべきものが鮮やかに立ち上がってくることだ。秋田県象潟の水田の風景は、雨期になると日本の農村の地表が水の膜によって覆い尽くされることを示す。あらゆる場所に点在する春の桜のピンク色の塊、小さな矩形の石がちらばっているような墓地も日本独特の眺めだろう。三内丸山の縄文遺跡と石油コンビナートが、共通の構造を持つように見えるのも面白い。一枚一枚の写真から発見の歓びが伝わってくる。こうなると最終的な目標は、47都道府県すべての「jp」シリーズがそろうということになるのだろうか。
2013/04/24(水)(飯沢耕太郎)