artscapeレビュー

2014年04月15日号のレビュー/プレビュー

青木恵美子 展──春のように

会期:2014/03/20~2014/03/30

東邦アート[東京都]

非具象絵画を説明するとき、短い文章のなかで色彩がどうの構図がこうのといっても伝わりにくいので、なにか具体的なモノにたとえることがある。青木の絵だと「夕焼け空の郊外風景」とか「底に異物が沈殿した血液」とか。本人の意図はともかく、なんとなくどんな絵か伝わるはず。でもそうやってなにかにたとえるとイメージが固定化しかねない。イメージの固定化はその画家のトレードマークづくりには有効だが、絵画表現としては退行を招く。だからつねに画家は見るものを裏切り続けなければならない。そして見るものは以前のような作品を期待しつつ、その期待を裏切られることも期待するのだ。青木も「夕焼け空」だと思ったら「青空」になったりするところを見ると、少しずつ裏切ってることがわかる。今回はさらに太い筆触を強調したモノクロームに近い絵や、画面の低い位置に水平線を引いた抽象なども登場したが、これらは具体的なイメージを呼び起こさないので、これまでと違ってなにかにたとえにくい。その意味では期待どおり大きく裏切ってくれた。でもちゃっかり「夕焼け空」も出している。

2014/03/26(水)(村田真)

アート・アーカイヴ資料展XI──タケミヤからの招待状

会期:2014/03/03~2014/03/28

慶応義塾大学アート・スペース[東京都]

まだ画廊も美術館もほとんどなかった1951年から6年間、瀧口修造による先鋭的な企画展を開いてきたタケミヤ画廊の資料を公開している。タケミヤ画廊は神田小川町にあった竹見屋洋画材店の大部分を展示スペースに提供したもので、企画を瀧口に依頼し、発案者の阿部展也を皮切りに、北代省三、山口勝弘、利根山光人、河原温、草間彌生、池田龍雄といった当時の若手作家の個展を中心に開いてきた。展覧会は約10日間ずつ計208回におよぶ。その案内状とリーフレット、写真などの展示。感心したことその1。案内状は全体の3分の1程度しかなく、リーフレットや写真もごくわずかだが、これだけ? とあきれるより、よく集めたもんだとホメるべきだろう。その2。初期のころの案内状の表記は「竹見屋画廊」「ギャラリー竹見屋」「タケミヤギャラリー」「画廊タケミヤ」などマチマチで、「画廊」も旧字体もあれば新字体もあって、細かい表記にこだわらない大らかさが感じられる(アーキビストからすれば困りもんだが)。その3。リーフレットはもちろんカラー図版など望むべくもなく、文字情報だけのシンプルなものだが、ちゃんと解説か推薦文が載り、おまけに出品作品のタイトルとサイズを記したリストまでついてること。これは資料的価値が高い。

2014/03/26(水)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00025090.json s 10098393

山谷佑介「ground」

会期:2014/03/20~2014/04/06

POST[東京都]

2〜3月にYUKA TSURUNO GALLERYで「Tsugi no yoru e」を開催したばかりの山谷佑介が、続けざまに個展を開催した。POSTのギャラリー・スペースと店舗内に展示された6点の作品は、とてもユニークな方法で制作されている。
ライブハウスの床を撮影し、それをインクジェット・プリントで実物大に引き伸ばして、もう一度その床に貼り巡らす。数時間経つと、ダンスに興じる観客たちによって、プリントのペーパーは汚され、踏みにじられ、表面が剥離してぼろぼろになっていく。それをそのまま展示したのが今回の「ground」展で、画像の片隅に煙草の吸い殻や髪の毛などがそのまま貼り付いているのに、妙に心そそられた。コンセプチュアルな作品だが、物質性が異様に強く、光と影に還元された画像ではない直接的な「印画」を獲得するという意味では、「写真とは何か?」という根源的な問いかけに答えを出そうとする「写真論写真」のようでもある。
「Tsugi no yoru e」が、大阪のアメリカ村界隈を撮影したモノクロームのスナップショットだったので、今回のシリーズでの“飛躍”は驚きと言うしかない。山谷の写真家としての資質が、ひとつの方向ではなく、多方向的に全面開花しつつあることのあらわれとも言えるだろう。しばらくは、彼の動向から目を離せそうもない。
なお、展覧会にあわせて、lemon booksから同名の写真集が刊行された。「床」のシリーズだけではなく、同時期に撮影されたカラー・スナップ群もおさめられており、山谷の発想が彼自身の生活感覚にしっかりと裏付けられていることをよく示していた。

写真:201207132330-0522 www

2014/03/27(木)(飯沢耕太郎)

《原広司自邸》/《トラスウォール・ハウス》

[東京都]

埼玉県立近代美術館の「戦後日本住宅伝説~挑発する家・内省する家」展の準備のために、原広司の自邸を訪問した。玄関は小ぶりだが、傾斜地を活かし、奥には住宅のイメージを超えた幾何学的な空間が展開する。後の京都駅などにも通じる形式であり、住まう家の枠組に囚われないヴィジョンを内包していた。スケールの操作も興味深い。その後、同じ鶴川にある原の初期作品の《慶松幼稚園》と、《鶴川保育園》も訪れた。前者は、のびのびとした造形で、光の穴と鮮やかな色が各部屋を彩る。後の那覇の小学校にも連なるデザインだった。後者は、矩形フレームを内外で反復しながら、丸柱の列柱廊や吹抜けが領域をつくる。ここにも原の他の作品との連続性がうかがえる。
鶴川駅の近くでは、大学院のとき、完成したばかりに見学した、牛田+フィンドレイによるトラスウォール・ハウスを再訪した。キースラーばりの臓器のようなぐにゃぐにゃした造形のインパクトは変わらない。ただ、壁は白さがだいぶなくなっていた。

写真:上=原広司《慶松幼稚園》、中=原広司《鶴川保育園》、下=牛田+フィンドレイ《トラスウォール・ハウス》

2014/03/27(木)(五十嵐太郎)

安部泰輔──いきもののようなもの

会期:2014/03/27~2014/04/13

MZアーツ[神奈川県]

古着を使ったぬいぐるみや刺繍作品で知られる安部泰輔。大分在住ながら全国各地を飛び回り、ミシンを踏んで制作している。この4月に40歳になったばかりだが、ヨコトリには2度(2005、2011)参加したベテランだ。展示は動物や天使などのぬいぐるみが中心だが、今回はゴッホの《ひまわり》を素材にした二次創作や、板を重ねて水玉模様を施したタブローなどフレッシュな新作もある。でも安部泰輔といえばミシンを踏んでなきゃ。

2014/03/27(木)(村田真)

2014年04月15日号の
artscapeレビュー