artscapeレビュー

2015年09月15日号のレビュー/プレビュー

「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」展

会期:2015/06/24~2015/08/31

国立新美術館 企画展示室 1E[東京都]

手塚治虫が亡くなった1989年以降から現在までの作品を扱うが、実質的にはデジタル技術がいかにサブカルチャーの表現に浸透したかをたどる内容である。全体としては点数がかなり多く、確かに現代の動向を総覧できる場になっていたが、逆に個々の掘り下げはどうしても浅く、展示の方法も難しい。マンガに知らない作品が多かった。

2015/08/02(日)(五十嵐太郎)

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ディン・Q・レ展:明日への記憶

会期:2015/07/25~2015/10/12

森美術館[東京都]

事前の想像をはるかに超えて、素晴らしい展覧会だった。横浜トリエンナーレ2014でヘリコプターのCGを単独で見たときはあまりピンと来なかったが、こうして全体の仕事を理解すると、納得がいく。主にベトナム戦争を扱う社会派の作家だが、問題を告発して終わりではなく、アートならではの表現にきちんと落とし込み、さらに作品の完成度が高い。頭のよい作家だと感じた。冒頭のトンボからヘリコプターのイメージに連なる映像、おびただしい家族写真を散りばめた部屋、従軍画家の作品を再評価するプロジェクト、軍服のコスプレをする男など、どの作品も印象深い。

2015/08/02(日)(五十嵐太郎)

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浦田進「8月6日の朝」

会期:2015/07/28~2015/08/10

ギャラリーNP原宿[東京都]

浦田進は1975年島根県生まれ。東京綜合写真専門学校第二芸術科(夜間部)卒業後、都市のストリート・スナップを中心に発表してきたが、2006年から8月6日に広島・平和記念公園で開催される平和記念式典(原爆死没者慰霊式)を撮影するようになった。2009年からは、慰霊碑の前で手を合わせる人々の姿を90ミリの望遠レンズで撮影する「8月6日の朝」のシリーズを開始する。今回のギャラリーNP原宿での展示では、2009年から14年にかけて撮影された同シリーズから、32点が壁に一列に並んでいた。
2011年の東日本大震災を契機として、スナップ写真やドキュメンタリー写真を撮影する写真家たちの意識が変わりはじめた。従来の方法論では、流動的に変容する現実を捉えるのがむずかしくなってきているためだ。浦田のような長期にわたる「定点観測」による撮影も、そのひとつの可能性を示しているのではないかと思う。今回のシリーズでも、撮り方を固定することで、逆に観客を被写体の多様なあり方に思いを馳せるように引き込んでいく狙いがきちんと打ち出されて、見応えのある写真群として成立していた。
写真展にあわせて青弓社から77点の写真がおさめられた同名の写真集が刊行されたことで、このシリーズも一区切りを迎えたのではないだろうか。浦田自身は、これから先も平和記念式典の撮影は続けていきたいと考えているようだが、同じやり方をとる必要はないだろう。「8月6日」の意味をさらに語り継いでいくためにも、新たな角度からのアプローチが求められる時期にきていると思う。なお本展は8月12日~23日に広島市のgallery718に巡回した。

2015/08/03(月)(飯沢耕太郎)

もとの黙阿弥

会期:2015/08/01~2015/08/25

新橋演舞場[東京都]

明治時代を描く、井上ひさしの舞台である。縁談予定の男女が、まずは相手の本音を探ろうと、それぞれの書生と女中と立場を交換して、四名で会い、混乱のラブコメが展開していく。いかにも西洋の古典にありそうな普遍的な構造をもった原作なので、昼食時間も含む3時間超えの長丁場ながら、飽きさせることがない。

2015/08/03(月)(五十嵐太郎)

朝山まり子/岡部稔「EMON AWARD 4 Exhibition」

会期:2015/07/29~2015/08/22

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

ポートフォリオレビューとプレゼンテーションを経て、 東京・広尾のEMON PHOTO GALLERYで個展を開催する作家を選出するのがEMON AWARD。昨年、僕自身を含む6名の審査員で4回目の審査がおこなわれたのだが、一人に絞るのがむずかしく、結局、朝山まり子と岡部稔の二人が選出された。作品が賞のレベルに達していなかったというわけではなく、二人の作品が互いに拮抗していて、優劣をつけがたかったのだ。今回、EMON PHOTO GALLERYのギャラリースペースで開催された展覧会を見ると、対照的な作風と思われた二人の仕事がひとつに溶け合って、なかなか気持ちのいい展示空間ができ上がっていた。
東京都在住の朝山まり子は、山歩きをしながら写真を撮影し続けてきた。従来の山岳写真の枠組みにおさまることのない、みずみずしい自然の息吹に包み込まれるような風景写真の新たな領域を切り拓こうとしている。今回は8点に厳選した作品を展示したのだが、それらを見ると、細やかな自然観察を基調としながら、生命力の波動を全身で受け止めようとしている彼女の写真が、さらにスケール感を増しつつあるように感じられた。
一方、静岡県三島市在住の岡部稔は、入院中の母親の病院を訪ねる行き帰りに、海辺の光景を撮影している。といっても、壁のひび割れや染みなどをクローズアップで捉えた画面は、ほとんど抽象化されており、そこに思いがけない奇妙な形や模様が浮かび上がってくる。「IMPROVISATION」というタイトルが示すように、ジャズの即興演奏を思わせる仕事なのだが、今回は和紙に画像を焼き付けており、その物質感が有機的なフォルムと結びついて、説得力のある表現として成立していた。
二人とも、これからさらに自分の作品世界を大きく育てていくことができると思う。今回の展示がそのきっかけになることを期待したい。

2015/08/04(火)(飯沢耕太郎)

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