artscapeレビュー

2015年09月15日号のレビュー/プレビュー

アーティスト・ファイル2015 隣の部屋──日本と韓国の作家たち

会期:2015/07/29~2015/10/12

国立新美術館[東京都]

今年は「アーティスト・ファイル」の拡大版で、日韓の国立美術館が共同制作し、それぞれ6人ずつ計12人を選んでいる。日本人は小林耕平、手塚愛子、冨井大裕、南川史門、百瀬文、横溝静の6人で、作品はだいたい想像がつくだろうから省略。雑だなあ。韓国人は大半が初めてだが、名前を連ねても意味ないので、興味深いのを3人ほど。キ・スルギは写真で、とくに「ポスト・テネブラス・ラクス(Post Tenebras Lux)」シリーズは、人けのない森や林道に浮かぶぼんやりした不定形のかたまりを撮ったもの。おそらく薄い布みたいなものを振り回して長時間露光で撮影したと思われるが、不気味でありながらどこかユーモラスでもある。イ・ヘインは100点を超す風景画などの油絵を壁に掛け、床にキャンプ用のテントを張っている。彼女はここ数年、画材とテントを持って各地を放浪しながら絵を描いてきたストリート・ペインター。ストリートに描くのではなく、ストリートでストリートをキャンバスに描くのがおもしろい。ってか、これって印象派と同じかい。イ・ウォノはホームレスから段ボールの家を購入し、その段ボールで巨大な家を再構築し、あわせて購入金額も提示している。その金額を見るとだいたい3千円前後が多いが、ひとりだけ2万円を要求してるヤツがいた。それはともかく、こうして見ると韓国のほうがストリート系が多くて楽しそう。

2015/08/05(水)(村田真)

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アーティスト・ラボII シミュレーションゲーム

会期:2015/07/18~2015/08/30

川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]

打ち合わせのため川口のアトリアへ。ここに来るのは7年ぶり。美術館としては小さすぎ、ギャラリーとしては大きすぎだが、逆にいえば小回りのきく美術館であり、多様な要望に応えられるギャラリーともいえる。いわば地域に開かれたアートの場といったところ。ワークショップなどを通してアーティストとともに作品や展覧会をつくっていく「アーティスト・ラボ」もそのひとつ。今回の「シミュレーションゲーム」は、「あなたがもし○○○だとしたら」という仮定のもとでなにかをつくっていく企画で、アーティストはMaS(T)A(五月女哲平+森田浩彰)と山本高之の2組。それぞれ「旅したつもりになってみよう」「きみのみらいをおしえます」というテーマを設けている。わざわざ遠くから見に行くもんではないけれど、近所の人たちは喜ぶだろう。

2015/08/06(木)(村田真)

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ビヨンド・スタッフ

会期:2015/07/15~2015/08/22

ミヅマアートギャラリー[東京都]

アイ・ウェイウェイほか4人の中国人アーティストによるグループ展。入ってすぐのディスプレイには、2011年にアイ・ウェイウェイが投獄されたときの様子を再現?した映像が映し出され、導入部のイニシエーションとなっている。ギャラリーには、昨年の「中国現代美術賞」の15周年記念展に展示されるはずだったのに、当局により撤去されたアイ・ウェイウェイの作品が梱包されたままの状態で並んでいる。迫害を受けながらそれを次々と作品化していくのだから、中国にいる限りネタには困らないともいえる。困ったことだ。アイ・ウェイウェイのほかには、毛沢東の顔をモチーフにした大皿とか、民主的な投票により自分の身体を麻酔なしで切り裂いていく映像とか、胸くそ悪くなりそうな作品ばかり。もちろんなにがいいたいのかわからない作品よりはるかに有効だが。

2015/08/06(木)(村田真)

アートアワードトーキョー丸の内2015

会期:2015/07/31~2015/08/09

丸ビル1階マルキューブ[東京都]

全国の美大の卒業生・修了生による選抜展「アートアワードトーキョー」、毎年5月に丸の内の行幸地下ギャラリーで行なわれていたが、今年は丸ビル1階に会場を移し、真夏の開催となった。行幸地下ギャラリーは、長さ100メートルくらいある通路の両側のショーウィンドウをギャラリーに見立てた空間で、もともと人通りは少ないし、ショーケースのなかにお行儀よく並んだ現代美術を見ていくのはあまり気分のいいものではなかった。今回は雑踏のなかのオープンスペースに仮設壁を立てて展示しているため、狭くなったけれども多くの人の目に触れ、作品を間近に見ることもできる(その分リスクも増すが)。作品は絵画が大半を占めるが、ただ絵画だけの展示はむしろ少なく、映像や立体と組み合わたインスタレーションが多い。こういう展示はあまり感心しないけど、抽象画と色を塗った木の枝を組み合わせた宇都宮恵(東京藝大)の作品は成功している。個人的には会場の隅っこに囲いをつくって資材置き場みたいにし、目立たないように絵画を飾った川角岳大(愛知芸大)のインスタレーションが好みですが。

2015/08/06(木)(村田真)

試写『氷の花火──山口小夜子』

70年代にスーパーモデルとして活躍した山口小夜子のドキュメンタリー映画。86年を境に彼女はファッションモデルからパフォーミング・アーティストに軸足を移す。そのきっかけとなったのは、山本寛斎の証言によれば、彼自身の放ったセクハラまがいの言葉だったらしいが、映画のラストシーンにその寛斎のショーに出た最後の姿が映し出され、胸が詰まる。映画は生前のショーやCM映像、没後8年目に開封された数々の遺品、寛斎のほか高田賢三、ジャン=ポール・ゴルティエ、セルジュ・ルタンスらの証言などによって構成される。男の関係者の多くがゲイというのが、彼女の美の世界を物語っているように思える。


「氷の花火 山口小夜子」予告編

2015/08/06(木)(村田真)

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