artscapeレビュー

2016年01月15日号のレビュー/プレビュー

福留麻里『そこで眠る、これを起こす、ここに起こされる』

会期:2015/12/22~2015/12/23

世田谷美術館[東京都]

本作は、「トランス/エントランス」という企画の第14弾。毎度、世田谷美術館のエントランス・ホールを使って行なわれるパフォーマンスのプログラム、10年目を迎える今回は福留麻里のソロダンスだった。特定の場をリサーチして、その場の歴史や環境を掘り起こし、そこから見出された事象の意味を芸術の方法を用いて引き出すというタイプの試みは、とくに美術の分野ではいまや当たり前の形態だ。とりわけ、「地域アート」として括られる多くの国際トリエンナーレでは、個々の作家が最新作の展示をその場で披露する意味が乏しく、その代わりに価値が感じられるのは、地域をリサーチしたうえでそこから見出されたものに光を当てた展示といった状況がある。すなわち、ホワイト・キューブのニュートラルな(展示する作品を限定しない)性質にふさわしいニュートラルな(展示する場を限定しない)作品ではなく、むしろ場のローカリティを無視せずにその場所の性格にふさわしい表現、その性格に拮抗する表現が求められているということだろう。そういうことであるならば、自ずとアートはこれまでの自分自身の性格(例えば、作家という個の内面の発露といった性格)を変更せざるを得なくなるだろうし、現在、その過渡期にあらゆるアート表現は直面していると考えるべきだろう。さて、そんな状況にダンスはどう答えるのか? 福留麻里が今作で挑んだのは、こんな問いだったのかもしれない。世田谷美術館は広大な砧公園に置かれているが、本作は、福留が公園と美術館とに足繁く通ったその「調査」の様子を反映したものとなっていた。ときに、その場に棲む鳥や小動物や昆虫のようになって、また福留本人として、福留はエントランスホールに散りばめたオブジェたち(小枝や靴や小物たち)と対話する。その動きは福留らしく、とても繊細で、丁寧だ。とはいえ、同時に感じられるのは、「なぜ、ここにいるのが、福留なのか?」という問いだったりする。ダンサーはここで観客と「ここ」をつなぐ役割をなす。あるいはダンサーは反響板となって、観客の前に「ここ」を映し出す。それがどうしてこの(福留麻里という)反響板なのか? 筆者は個人的に福留麻里という振付家・ダンサーを敬愛している。繊細で丁寧なダンスは掛け替えのないものだ。だからこそあえて問いたくなる。観客とリサーチ対象とをつなぐ「メディア」として、ダンサーはその個性をどう発揮するべきなのか? 個性は「メディア」のノイズとなる面もあるかもしれない。もし欲深くなってよいなら、この上演に「振り付け」があったらよかったのではと思う。福留麻里という特権的な身体でしか踊れないものではない「振り付け」が。その振り付けが場と観客とをダイレクトにつなぐものとなるならば、福留麻里は「機能」として透明化する(公共化する)ことだろう。そのとき福留の身体を観客は、福留らしい、場へのまなざしを体験しつつ、身体化することだろう。

2015/12/23(水)(木村覚)

東京藝術大学大学院美術研究科 平成27年度 博士審査展

会期:2015/12/15~2015/12/24

東京藝術大学大学美術館+絵画棟など[東京都]

藝大博士課程の展示。専攻別に見ると、文化財保存学が最多の6人で、先端芸術表現5人、日本画、油画、芸術学が各4人、彫刻3人、工芸2人、デザイン、建築が各1人と続く。やはり金にならないジャンルほど大学院に残るようだ。しかも博士課程まで行くとドツボにはまり、ますます売れそうにないもの、役に立たないものをつくってしまいがち。展示を見ると、かたわらに置かれた論文に目を通せばもう少し理解できるだろうけど、そんなヒマもないので、つい視覚的にインパクトのあるものに足を止めてしまう。菱山裕子はしばしば銀座の画廊で個展を開いてきたベテランといっていいが、今回は空気を送り込んで膨らませる植物状(またはタコ足状)のバルーンを用いている。これまでの金網の彫刻から脱却か。川島大幸は半透明の光学ガラス製の彫刻を回転させ、そこに光を当てて壁に反射させている。これはガラスの彫刻がメインなのか、光の反射がメインなのか……まあどっちも重要だろうけど。笹川治子はベニヤ製の人間魚雷をつくり、天井から吊るしている。いかにもチープなつくりで笑えるが、実は大戦末期に粗造された人間魚雷もこれと大して変わりがなかったとしたら恐ろしくなる。

2015/12/23(水)(村田真)

2015 SHORT SHORT

会期:2015/12/15~2015/12/24

東京藝術大学 上野校地美術学部 絵画棟1F[東京都]

博士展に合わせて油画技法材料研究室の修士1年の成果発表をやってたのでついでに見たけど、別に見なくてよかったかも。

2015/12/23(水)(村田真)

東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻3年生展覧会「空中にて」

会期:2015/12/18~2015/12/26

アーツ千代田 3331 1階メインギャラリー[東京都]

ここでも藝大の展覧会だ。学部3年生なので、翌年に控えた卒業制作展の予行演習のつもりかもしれない。でも油画専攻なのに、ぱっと見、絵画は半分くらいで、あとはインスタレーションだったりメディアアートだったりする。いや実際には絵画はもっと多いはずだが、インスタレーションやメディアアートのほうが目立つから絵画の存在感が薄く感じられるのだろう。それがまた絵画離れを加速させているのかもしれない。肝腎の絵画も少女マンガやイラストに毛が生えたような幼稚な発想の作品が多くて、おじさんは不満だ。

2015/12/23(水)(村田真)

高畑早苗「妄想中世──po パーソナルオブジェ」

会期:2015/12/10~2015/12/23

佐賀町アーカイブ[東京都]

ふたつの壁面にびっしりと小品が掛かっている。当初350点あったという(即売なので少しずつ減っている)。高畑は18歳のときにパリに行き、ギャラリーでデビュー。そのころの作品も奥の部屋に飾ってある。その後ニューヨークに移住し、ギャラリーと専属契約を結んだという。直前に藝大生のヌルい作品を見たせいか、絵のうまさでは負けるけど、初めから確たるヴィジョンを持ち、アーティストとして揺るぎなく生きてきた心がまえが違う。

2015/12/23(水)(村田真)

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